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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第29話 双海と菊池


 そして、さらに続ける。

「ヨシフミさんは、こちらを」

 そういって差し出されたのは、大振りな真紅のバラの花が2輪だ。

 こういうとき、ヨシフミは有利だ。薔薇の花から生気(プネウマ)を得るのに、毒の盛りようなどないからだ。


 この部屋に先導してきた男が椅子を勧め、瑠奈とヨシフミは素直に座る。だが、椅子の位置を体一つ分ずらすのは忘れない。これだけで、かなりの種類の罠は防げるのだ。

 そうこうしているうちに、フレンチプレスでコーヒーが淹れられ、温められた牛乳と混ぜ合わされた。そして、それは3つの大ぶりの米色瓷のカップに注がれた。


「じゃんけんか?」

「それでもいいが、ま、お客に好きなものを選んでもらうのが筋だろうな」

 2人の男はそう話し、3つのカップのカップを瑠奈に差し出した。そして、そこには小さな焼き菓子も3種類が1つずつあった。

 これは、「譲歩の容易がある」というヨシフミの言葉が裏付けられるものだ。前々から用意していなければ、ここで出てくるはずがない。

 それと同時に、さすがに本職(プロ)だ。瑠奈の心配など最初から見抜いている。


 瑠奈が最初にカップと焼き菓子を取り、残りを2人の男がそれぞれに取る。焼き菓子は3種類あって、どうやら狙っていたものが双海と菊池にはあったようだ。その希望どおりに配分されたかは、瑠奈には手に取るようにわかった。顔にそのまま出ていたからだ。もちろん、毒云々のような雰囲気ではない。「ナッツが喰いたかった」と、その程度のものである。

 男たちが無頓着にカップに口をつけるのを見て、瑠奈も一口、口に含む。


 驚いたことに、瑠奈が生きてきた長い長い年月の間で、一番美味いカフェ・オ・レだった。思わずもう一口飲み込み、我ながら情けないほどの大きなため息が漏れてしまう。


「……美味しい」

 多分にため息への言い訳だったが、瑠奈のその声にカフェ・オ・レを淹れた男は嬉しそうに笑った。うっかりすると、十年来からの知り合いかと錯覚してしまいそうな笑みである。


「コイツが、口にするものにはうるさいんですよ」

 そう言って、瑠奈たちをここに連れてきた男を指差す。

「指差すんじゃねぇ。それより本題に入ろう」

 そう言う男の横で、真紅のバラがはらはらと花びらを散らした。ヨシフミが生気(プネウマ)を吸い取ったのだ。

 

 だが、それを見ても男は動じず、淡々とした口調で名乗った。

「俺は双海という」

「菊池です」

 カフェ・オ・レを淹れた男も名乗った。

 本名かどうかはわからない。というか、本名を名乗るはずがない。だが、それが偽名でも、名乗ってくれたおかげで話はしやすくなった。


「双海さんたちは……」

 瑠奈は質問を投げかける。

 それに対して、双海と名乗った男が答える。

「ああ、俺たちはさっき言った古い組織の人間だ。蒼貂熊(アオクズリ)のことで、異世界対策の裏を任されている。俺たちはこの任務を……」

「それは、海外にも顔が利くからですよね?

 依頼は日米双方からですか?

 それともロシアも噛んでますか?」

 瑠奈の指摘に、双海と菊池は驚いた顔になった。

第30話 昔話

に続きます。

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