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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第27話 合意


 薔薇十字は、医学に関わる知識と技術を少しずつリークし、広めてきた。だが、これは途方もない苦難の道のりでもあった。例えば、化学の知識がまったくない時代の中で薬学の知識を投下しても意味はない。光学の知識がなく、顕微鏡がないところへ細菌の知識を投下しても意味がない。

 結局は「おまじない」として、無知の闇に消えてしまう。


 薔薇十字の構成員たちは、眼の前の病人が苦しんでいるのを見守るしかない辛さに耐えながら、人類の総合的な科学の進歩と歩調を合わせて医療の進化を進めてきたのだ。そうせねば、医学自体がオカルトの闇に落ち、科学の光明を失う危険があまりに高かった。


 だが、ときとして薔薇十字の漏らした知識が、科学の飛躍的進歩のきっかけとなることがあった。科学史、医学史を振り返り、その不連続さを追求したら薔薇十字の姿は隠しきれない。そして、当然その恩恵はこの国の優秀な医師にも受け継がれているのだ。

 優秀な諜報機関が、そういうものがあるという前提で情報を洗い直せば、瑠奈たちが隠れ(おお)すことは無理だったのかもしれない。


「山道の擁壁の上の巨大なイヌ科の動物の足跡を見つけたとき、我々はようやくその情報の尻尾を掴まえたと思った。総力を上げて君たちを調べ上げ、過去に自ら『ヴァンパイアになった』と言っていたいう話をかつての同級生から聞き出した。そして、たくさんの不可解な事件も裏取りができた。体育祭などそれを証明する動画データもあったというのに、中学校の中の正常化バイアスの強さを我々は思い知ったよ。

 ともあれ、我々は君たちが再び闇の中に隠れるのを見逃せなかった。なんとしても身柄を確保し、異世界へのテクノロジーの一端を得なければならないと判断したのだ。

 でなければ、こちらの世界は征服されてしまう」

 男の声は切々としたもので、現状にどれほどの危機感を抱いているか、痛いほど伝わってくるものだった。


 いくらヨシフミの支配から自力で脱せたとはいえ、嘘をぺらぺらしゃべれるほど赤い目の威力は甘くない。この男の能力は凄まじいものだと言っていいが、それでもヨシフミの意とバッティングしていないからこそこのように話せたのだ。もしも、最初から騙そう、嘘をつこうと話していたのなら、心を引き裂かれる痛みを感じていたはずだ。

 その気配がない以上、この男はどこまでも真実を語っている。


 短い沈黙ののち、瑠奈は口を開いた。

「いいよ。

 知っている限りのことは教える。その上でだけど、私たちはどうなるの?

 教えたら、私たちは再び隠れることもできなくなるかもしれない」

「もちろん最大限の便宜を図ろう。今の君たちの生活を乱すようなことはしたくない」

 まずは、1つ同意が得られた。だが、その同意はきちんとした形にしなければならない。1つ目がいい加減だと、その後のすべての同意がなし崩しなものになってしまう。


「それは何年くらい?」

「……どういう意味だ?」

「ヨシフミはヴァンパイアよ。おそらくは、世界最長のこの国の歴史よりも寿命は長い。その中で、戸籍の処理とか公的な市民権とか、いろいろと問題が生じる。私たちはそれを切り抜ける手を持っているけど、そこに干渉されたらとても困る」

 それに対し、男は片手を上げた。

第28話 対等の交渉

に続きます。

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