第25話 謎の答え
2人が力ずくで破ろうとしたドアが、再び向こうから開いたのだ。
やる気満々だったヨシフミと瑠奈は、内心での肩透かし感が大きかったが、なんとか心を瞬時に立て直した。
そして、ドアの向こうには、ビジネススーツの男が一人。
ついに、瑠奈たちを拐った組織の構成員が姿を現したのだ。
「さ、好きにするがいい。俺が信用に価するか、気が済むまで調べろ」
言い草が、組織からの人身御供のそれである。なんの情報も持っていない下っ端が自己犠牲の精神で名乗りを上げたのかもしれないが、そう判断するには歳が行き過ぎていた。
外見上、年齢ははっきりしない。老成という雰囲気とそれに反する身体を動かすときの軽快なリズムは、そのまま正体の掴めなさを現していた。見る者が見れば、歴戦の軍人と見抜いていただろう。
だが、その声と目つきは実直と言ってよく、荒んだものを感じさせなかった。
事の善悪など論じていても仕方ない。ヨシフミの判断は、反射と言っていいほどの速さだった。
その目は一瞬赤く輝き、この男を支配下に置いた。
「今まで話していたのはあなたですか?」
「いいや。話していたのは俺のバディだ」
「あなたはどういった立場の方ですか?」
「この作戦の指揮を取っている者だ」
「……つまり、ここで一番偉い人ですか?」
「偉いという言い方には同意しかねるが、権限は持たされている」
ヨシフミはその予想外の答えに瑠奈を見た。
瑠奈は無言で首を軽く横に振る。やはり、予想外過ぎてどう反応していいわからないのだ。
だって、こんな人体実験に自分を差し出す諜報機関のトップなんて、存在するはずがない。だけど、ヨシフミの赤い目の支配の中で嘘をつくのは不可能だ。
やはり、ありえないことが起きている。
「そのような人が、なんでこの場に出てきたのですか?」
事態の詳細よりも、まずヨシフミはそこを聞いた。
「君たちと最短時間でなんらかの同意に至るため、必要なことと判断した」
「……同意ですか?
その同意とはどういう意味ですか?」
「我々はこの世界に存在しているものだ。仮に人類とは言い難い存在であったとしても、異世界の存在とは利害が一致しないはずだ。だから、こちらの世界を守るためなら、手を握り合えるはずだと考えている。また、そうしなければこの世界は共倒れに倒れてしまう」
そう言われて、その言葉自体には納得したヨシフミだったが、それにしてはまだまだわからないことが多すぎる。
「私たちのことは、いつから調べていたの?」
この質問は瑠奈からだ。
「君たちが、峠で蒼貂熊と戦ったあとだ。ライブカメラやNシステムから君たちを割り出した」
「……では、どうして私たちのことがわかったの?」
この質問は、瑠奈にとって一番聞きたいことだった。
「においだ。
君たちのにおいが、山の中に残っていた。山道の擁壁の上にまで、な」
「警察犬ってこと?」
「違う。俺の嗅覚が敏感なんだ」
そこまで言われて、瑠奈はすべてに納得した。もしそういう人間がいれば、峠での瑠奈とヨシフミの戦いのすべてをトレースできたはずだ。これだけのことで謎のすべてが氷解した。
「巨大なイヌ科の足跡には驚かされた」
そう男が付け加えたのに、ヨシフミは仰天した。
男はヨシフミの完全支配下にいる。いるはずだ。自発的行動を取れるとは思えない。なのに、この男は自分から話したのだ。今までこんな経験はない。
第26話 諜報活動とは殺し合いではない
に続きます。




