第22話 正体露見
「我々は警察ではないぞ。
あの峠の山道で起きたことのすべてを、我々は把握している。特に山壁の擁壁についた巨大な足跡とかな」
「……嘘よ。
擁壁に足跡って……」
そうだ。そもそも、そんなところを調べることが可怪しい。それに、擁壁にだって足跡なんか残さなかったはずだ。
だが、どこまで白を切っていいかわからない。ただ、なにかを言って相手からより情報を引き出さねばとは思っている。相手の言いだしたことは、決して無視できることではないのだから。ただ、それにしても今のは、動揺が出すぎた反応だった。
「チタンパウダーで、きれいに浮かび上がったよ」
その言葉で、瑠奈はさらに呆然とした。
チタンパウダーは指紋を採るときに使う粉だ。山壁の擁壁に当てずっぽで振るようなものではない。瑠奈の正体と行動を知り尽くしていなければできないことだ。
一体全体、いつから瑠奈の正体はバレていたのだろうか?
いつから、この組織の手のひらの上で転がされていたのだろうか?
未だかつてない衝撃に、瑠奈の全身は細かく震えだした。この反応もモニターされていることはわかっている。だが、どうしてもこの震えは止められなかった。
「しかも、山道を降りて真っ先にしたことは服を買うことだったね。
我々は当然、一つの結論に達しざるをえなかった。ヨシフミくんに対してもだ。さっきの君の危惧は不要なものだよ。我々は、彼の正体についても見当がついているし、その確認のための実験もすでに実施済みだ。
なに、簡単なことだよ。紫外線ライト1つでことは足りた」
瑠奈の顔からすべての表情が抜け落ちた。
こうなれば仕方ない。生命を賭けて祖母にアラートを出す。そのあとは自らの死体を自ら消し、この世にどのような痕跡を残さない。そう、母がしたように。
ヨシフミは……、ヴァンパイアは死んだらどうなるのだろう?
映画だと崩れて風に撒き散らされて終わりだが、それで痕跡を残さないならそれはそれでいい。ヨシフミも、他者に利用されるくらいなら自分でその道を選ぶだろう。
瑠奈はベッドから降りた。
生体センサーと距離をおいたのだ。ジェヴォーダンの獣の姿に戻り、ここから逃げる。正面の鉄の扉さえ破れれば、あとは銃弾に身体を貫かれても1kmは走れる。どうせ持っていたとしても拳銃だ。ジェヴォーダンの獣の姿であれば、一発で殺されるようなことはないだろう。頭を撃たれても、口径が小さければ貫通はしない。
あとは敵の誰かの携帯を奪い、祖母にアラートを出せば、やらねばならないことは終わる。
瑠奈は、母のことが思い出されてならなかった。
瑠奈は、父の肩越しに見た最後の母の姿を、忘れたことはない。その姿は瑠奈が今まで会ってきた数万の人間の誰より美しかった。
自分もそこに近づくことができる。
そう思ったら、わけもなく高揚が止まらなくなった。
そこで、ドアが開いた。襲う相手が、手っ取り早く向こうからやってきた。そう思った瑠奈だったが、その出鼻は完全に挫かれてそのまま立ち尽くした。開いたドアから入ってきたのは、ヨシフミだったのだ。
その背中で再びドアが閉まり、施錠の音がした。どうやらその音からして、電子ロックらしい。人間は出てきていないのだ。
第23話 Give and Take?
に続きます。




