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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第20話 ハードネゴシエータ


 男の声の質らして、おそらくは部屋の外でマイクで話しているのだろうが、この部屋のどこにスピーカーがあるかは瑠奈の耳をもってしてもわからなかった。

 瑠奈は理解した。「なるほど、このタイプの拷問か」と。

 つまり、拷問吏との距離が遠いやり方だ。こうなると、もうこの部屋屋で出される飲食はすべて絶つ必要がある。だが、それでは当然生きていけない。分の悪い長期戦かつ消耗戦が始まるのを、瑠奈は覚悟した。


「そっちこそ何者よ?」

 とりあえず、質問に質問で返した。これで相手がどう出るか、そこからが戦いだ。


「そういう質問が許される立場だと思っているのか?」

「それがわからなきゃ、私だって答えていいかもわからないじゃない?

 相手次第で私、なんでも話すよ。だから、アンタが何者か、どこの組織に属しているか名乗りなさい」

「ではまず一つだけでいいから答えてくれ。君たちこそどこの組織の者だ?

 それがわからなければ、自ら名乗ることはできない」

 質問に質問の応酬である。それも堂々巡りで生産性がない。

 つまりこれは儀式なのだ。そして、まだ直接の拷問には間があるだろうと踏んでの、瑠奈の駆け引きとも言える抵抗だ。そしてこれには明確な目標がある。


 生気(プネウマ)という単語を話してしているのがバレてしまっている以上、とぼけてもいいことは一つもない。たいした時間稼ぎはできないし、こちらの株が下がれば痛い目に合う確率が上がるだけだ。だから、瑠奈は拷問吏と拷問される者の関係から、ハードネゴシエータ同士の関係に持っていこうとしているのだ。


 もう1つ、瑠奈がこの判断をしたのは、このスピーカーからの声がかなり理知的なものを感じさせたからだ。非情にもなれるが、おそらくは望んではならないタイプだ。与し易い相手ではないが、理解はし合えるかもしれない。


 ともあれ、ある程度の餌を与える必要はある。相手に期待してはいけないのは当然のこととして、相手が焦れたら尋問は拷問に変わる。そこの境目を見切り損なうことは許されない。掛かっているのは自分の生命なのだ。一旦拷問に移行すれば、もう解放はされない。殺されて終わりだ。ひと目で拷問にかけられたとわかる重傷者を、解放するなんて、決してありえないのだから。


 いっそ、本当のことを言おうと瑠奈は決めた。その方が時間が稼げると踏んだのだ。なんせ、この連中の価値観からしたら、あり得ない常識の世界に瑠奈はいる。

「私たちは、どこの組織とも敵対しない組織。『人類を死や病といった苦しみから永遠に解放する』ために……」

「そんな話を信じろというのか?」

 ほら、そうなるよね。大抵の組織は、生臭い目的のために存在しているんだから。

 そう思った瑠奈は、そのままさらに相手の判断に下駄を預けた。


「一つ聞いていい?

 今の私の話が嘘ではなく本当であった場合、その証明義務はそっちにあるの?

 それともこっちにあるの?

 普通は尋問する側が確認するよね?

 じゃなきゃ、真実はいつまで経っても手の中に落ちては来ないよ」

「……」

 虚を突かれたのだろうか。返事が返ってこない。そこで、瑠奈はもうひと押しすることにした。


「嘘だとなって酷い目に合わされるならまだ納得がいくけど、本当のことを言っているのに酷い目に合わされるのは納得がいかない。

 私たちは、私たちのものを盗もうとする相手以外のどことも敵対しない。あなたたちが、それなりに力のある組織なのはわかる。でも、500年以上生き延びてきた私たちの組織も舐めないで欲しい」

「なるほど。

 お前自身が真偽を知らされていない可能性は残るが、確認しよう。

 東洋と西洋の融合か?

 Mの書を守っていると?」

「……あんたたち、何者?」

 瑠奈の声は一気に低くなった。

第21話 名乗り

に続きます。

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