第15話 出発
クロマンタに行って、謎の黒服たちの組織の注意を引く。もちろんこれは避けねばならないことではあるのだが、半世紀も日本に帰ってこないという判断をすればいいだけの話で、実は瑠奈に問題はない。
だが……。
そこまでの覚悟をすると、逆に見えてくるものもあった。
「ヨシフミ。アンタは両親が健在なんだよ。いいの?」
「いい。フランスでもドイツでも、呼べばいいだけ。あの2人は、地獄の底でだって生きていける人たちだから。フランスやドイツなら喜んで来るよ」
……そうだった。
ヨシフミの親だけあって、そういう人たちだった。自らの魂と寿命で悪魔と取引を成立させるくらいには、ぶっ飛んでいる。
そして、あの黒服たちが国につながる組織なのであれば、ヨシフミの両親を人質にとって、殺すだのなんだの言い出すとは思えなかった。また、もしもそんなことを言いだしたら、|クリスチャン・ローゼンクロイツ《C.R.C.》の組織をもって対抗することになる。EUの国々のすべてを、日本が敵に回すとは思えなかった。
「それにね、本気で逃げるとなったら、僕も瑠奈も絶対捕まらないよ。その一方で、程よく黒服のあいつらを刺激してやれば、得られる情報の方が多いかもよ」
瑠奈が、ヨシフミに敵わないと感じるのはこういうときだ。社会経験の少なさから不必要にナーバスになるかと思えば、いきなりのこの図太さである。
これはただ単に、ヨシフミがヴァンパイアの力と国家というものの力のバランスを見極められていないからこそ起きる事態である。彼我の力の評価が、過小だったり過大だったりしているのだ。これが適切なものになったとき、国家というものですらヨシフミには手も足も出ないことになるだろう。
そんな未来が透けて見えるからこそ、その本質が巨大な狼に過ぎない瑠奈はヨシフミには敵わないと感じるのだ。
「わかった。じゃあ、クロマンタまで出かけよう。ヨシフミの荷物を車に載せて」
「瑠奈は着替えとか、持っていかないの?」
「要らない。私はお財布と携帯以外、なにも持たずに行く」
「また裸になっちゃうよ」
「意味がないんだよ。
なにも起きない強行軍なら、日帰りだって無理じゃない。だけど、なにか起きたら私の服はぼろぼろだ」
「だからこそ、必要なんじゃない?」
「相手の攻撃が一回だけだったらね」
これにはヨシフミも反論できない。
車に積んだ荷物が無事である保証はどこにもない。常に一人が車に残るなどという、めんどくさいこともできないだろう。となると、瑠奈の判断が正しくなる。戦いの回数の分だけ服は必要となるからだ。
そうなら、服は行った先で入手すると決めておいた方が後腐れがないのは事実だった。
「じゃ、出発しよう。僕が運転するよ」
ヨシフミの声に、瑠奈は頷く。
600km、往復で1200kmを超えるまでの長距離ドライブとなると、疲れという概念自体がないヴァンパイアのヨシフミが運転した方がいい。
車ではなく、新幹線で行くという選択肢もありはしたが、現実的ではない。タクシーで行って謎を突き止めようとするなど、小回りが利かなさ過ぎるし、運転手を巻き込むことなどできはしない。
そもそもが、「行く」のが目的ではないのだ。行って謎を解き、情報を得るのが目的である。疲れ果てて考えられないというのでは意味がないし、行った先での行動の自由の確保は絶対に必要だった。
おそらく、給油も数回に及ぶだろう。
「瑠奈は寝ていって」
瑠奈は、その申し出もありがたく受けることにした。




