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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第14話 東北行


 案の定と言うか、やはり警察は瑠奈の家までやってきた。

「お話を聞かせてください」

 という黒づくめの警察官に、落ち着いた雰囲気を演出した瑠奈は、にこやかにすべての質問に答えた。


「同乗の方は、いつ合流されたのですか?

 山に入るときは、道路のライブカメラに映った車内の人影は一人でしたよ」

「最初から乗ってましたよ。ただ、頭痛がするって言って、後部座席で寝ていましたけれど。

 山道が曲がりくねっていて、車が振られたんで寝てられなくて起きたんです」

「なるほど。そういうことでしたか。

 よくわかりました。それでは失礼します」

 瑠奈は最後まで笑みを崩さない。聞き取る警察官も笑みを絶やさない。

 ヨシフミは瑠奈に言い含められていたので、無表情を貫く。

 どこか嘘っぽい空間がそこにあった。


 瑠奈の家を出て、玄関から体の半分を出して黒づくめの警察官はふりかえった。

 帰ると見せかけて帰らない、ある意味いつもの手である。

「あ、そうそう。

 長くて赤い毛が現場に散乱してましてね。蒼貂熊(アオクズリ)の毛なら青黒い。心あたりはありませんか?」

 そう言われて、瑠奈は首を横に振る。

 安心させてから、いきなり核心に迫る。瑠奈はこれを予想していた。


「食肉目イヌ科の毛と鑑識は見ている。

 本当に心当たりはありませんか?」

「犬は飼ったことがありません。というか、長期に家を空けることがあるので、ペットは飼えないんです。物騒なのでこういうことはあまり言いたくないんですが、警察の方に話しているわけですからね」

「そうですか。ご協力、ありがとうございます。大変失礼しました」

 そう言って、警察官は帰っていった。


 十分に時間を取って、その警察官が戻ってこないことを確認してから、瑠奈はため息を漏らした。

 今回の事情聴取は、セオリーのようでセオリーのとおりではない。ねちねちと同じ質問を繰り返すようなこともなかったが、それを安心材料とするか、不確定材料とするかは瑠奈にも判断がつかない。



 ヨシフミは瑠奈の心配にも気がつかなげで、うきうきとバッグに着替えを詰め込んでいる。

 クロマンタまで行くつもりなのだ。

 どうせなら、行かない方が警察の注意は惹かないだろう。こういう件で話を聞かれたからこそ見に行ったとも言えるが、下手に動かない方がいい。蒼貂熊のことは、瑠奈たちにとって一刻を争う問題ではない。東北行は延期でもいいのではないか。


「だめだよ。事態は一刻を争う」

 ふいにヨシフミが話しかけてきた。

 瑠奈の迷いを見抜いたとしか思えない。さすがはヴァンパイア、人の心を読むだけのことはある。きっと、瑠奈を盗み見したときのその目は、赤く輝いていたに違いない。

 ヴァンパイアは人間を操る。その際にその目は赤く輝く。これは相手の自由意志を奪っているわけだが、力ずくより相手の心理状態を利用した方がより深く支配できるのは自明のことだ。そのために、ヨシフミは人の心をある程度は読める機能があるのだ。


「どうして一刻を争うのよ?」

「さっき来た人、警察官じゃないよ」

 ヨシフミの言葉に、瑠奈は凍りついた。


「どういう意味?」

「そのまんまだよ。どっかの組織の人で、でも警察じゃない。もっと大きな組織だ」

「警察手帳、持っていたよ。この国に、そんな偽装までできる組織があるの?」

「違うかも。僕も、そこまで読めたわけじゃない。だって、さっきの人も、そこについて考えていたわけじゃないからね。でも、警察官じゃないことは間違いないよ。

 だから、クロマンタには今行っておかないと、二度と行けなくなるかもしれないよ」

「……」

 瑠奈には一言も言えなかった。


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