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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第二章 人外のふたり

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第8話 ヨシフミ、その2


 それはともかく、ヴァンパイアの弱点は現代科学でかなりカバーできた。現に、ヨシフミは結構昼間でも行動している。デイ・ウォーカーに進化することもできるのだろうが、SPF50+でPA++++の日焼け止めに頼る方が話が早い。それだけ今の日焼け止めは、紫外線遮断効果が高いのだ。

 また、無限に近い時間があると、デイ・ウォーカーへの進化も「……そのうちに」となってしまうのだ。もちろん、ヨシフミ本人もよくないことと思ってはいるのだが、なにかの切っ掛けでもないと、そうそう重い腰は上がらないのだった。


 それに対して、流水を渡れないという弱点については、ヨシフミはすでにかなり克服していた。最初から道路側溝すら渡れないということはなかったし、その弱点はそもそも「設定」だということに気がついたのだ。

 つまり、心の持ちよう次第で、なにかの行動しなくても克服できる弱点だったのだ。


 つまり、教会から流刑に処せられたヴァンパイアが、コウモリの姿で飛んで戻ってきてしまっては困る、ということだ。そこに気がついてしまえば、その克服はそう苦労することではない。そもそも流刑地に海なり川なりを渡って行けているのだから、帰りだけ渡れないなんてことがあるはずないではないか。


 連れて行かれるのはOKでもヴァンパイアの自力では渡れないという解釈もできるかもしれないが、なら橋を渡る自動車にしがみつけばいい。夜だって車は走っているし、船や飛行機という選択だってできる。チケットを買うお金ぐらいなら持っているし、やはりなんら困らないのだ。

 で、そんな気楽な気持ちでコウモリの姿でチャレンジしたら、あっけなく利根川が渡れてしまった。そのあっけなさには、ヨシフミ本人が1番驚いたくらいだ。まぁ、ツッコミを入れるなら、2番目に驚く存在もいないのだが。

 こうなると、水を渡れないというのもご都合主義の「設定」としか言いようがない。


 流水が境界だから越えられないという見方も同じだ。ヨシフミは市境、県境を厳密には知らない。知らなければ越えられてしまう。これは市境、県境に力があるのではなく、ヨシフミの「越えられない」という思い込みの方が大きい証明なのだ。

 これを裏付けるための実験は簡単だった。市町村合併で境界が消えたら、一夜にして行動範囲が広がるはずだ。そして、実際にそうなったのだ。

 だが、よくよく考えればこんないい加減な基準はない。人間の作った自治体の範囲を決める法律で、ヴァンパイアの行動が物理的に制約を受けるのだから。この2つに因果関係なぞありようはずもない。

 これも「設定」だと気がついてしまえば、克服は簡単だった。


 このようにヨシフミは、ストイックにヴァンパイアというものについて調べていたが、あろうことかまだ血の味を知らない。

 ヴァンパイアは、赤い薔薇から生気(プネウマ)を得ることでも生きられるのだ。もちろん効率を考えれば、誰かから血と一緒に生気(プネウマ)を吸う方が遥かによい。得られる生気(プネウマ)の量の桁が違う。


 だが、ヨシフミは潔癖症だった。

 どこかのコキタナイ脂ギッシュなおじさんの首筋に噛みつく……、などと思うと背筋が寒くなる。血を吸うという行為がヴァンパイアの飢えを満たすだけでなく、愛情表現でもあるとすれば、中学生の人間だった頃の片思いの相手、瑠奈の首筋が好ましい。だけど、ヨシフミは未だ、瑠奈の首筋に牙を立てられていない。それはそうだ。瑠奈は瑠奈で、そもそも人間ですらなかったのだから。

 さらに言えば、血を吸うことで相手をヴァンパイアにしてしまうことについても、ヨシフミは慎重すぎるほど慎重だった。

 生気(プネウマ)の外世界からの持ち込みと無制限な利用は、きっとこの世界を滅ぼす。

 その可能性をヨシフミは否定できなかったのだ。

第9話 蒼貂熊の設定

に続きます。

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