第143話 閑話休題 雅依と珠花2ー4
こうなると、珠花はこの茶番劇を完成させたくなってきていた。
だって、途中で打ち切るのにはあまりに惜しい。あとで、雅依と大笑いしながらキャラメルソースたっぷりのカフェミストを飲もう。そのためのネタなのだから、きっちり完成させなければ、なのだ。
また、そうでなければ雅依があまりに可哀想だと珠花は思う。もちろん、珠花自身もだ。
「並榎の言うことはわかるよ。だけど、それでもリスクは高いじゃん。
たとえば、あっさり異世界との戦争に勝てたら、一生をまた裏で過ごすことになる。長引いたら長引いたで、死ぬリスクが極めて高くなる。そして負けたら、確実に殺される。
それでいいん?
『きれいな仕事ではないし、報われることなどない』ってのは、マジで言っていたと思うよ。私も『もっと良い働き口はいくらでもある』と思うし」
「そうだな。僕もそう思うよ」
そう言ってからの並榎の話に、雅依と珠花は下を向いてしまう。雅依はがっかりして、珠花は笑いをこらえるために。
並榎が純粋でいい奴なのは、雅依と珠花はよく知っていた。
だけど、それゆえにか、足元がまったく見えていない。その見えていなさがここまでとは、さすがに雅依と珠花、全然気がついていなかった。
さっきまでは並榎は今回のことで成長したと思っていた。だけどどうやら違う。凸凹ができただけだ。これで凹が埋まったら、本当の成長なのだろう。
並榎は続ける。
「僕のさっきの決心は、それに続いた延長なんだよ。だから、僕自身には違和感がなかったし、2人にはわかってもらえると思っていた」
もう限界だ。
並榎のばかやろー。
「うるさいっ」
ついに雅依が叫んだ。
並榎はさらに必死で語りだす。
「うるさいって言っているでしょ」
珠花としては諭すように言ったつもりだが、言葉に険が立ってしまったかもしれない。
並榎の顔は見ものだった。それこそ、「途方に暮れている顔」と書いた札を額からぶら下げているみたいだ。
「さっきから顔色悪いんだよっ!
さっさと病院に戻れっ!
卒業生については調べておくからっ!」
雅依の言葉に、珠花は驚く。
そして、驚きながらも納得していた。やっぱり雅依の負けん気も、珠花の負けん気とその質が同じなのだ、と。
並榎を取られた。私のことを忘れた並榎に後悔させてやる。自分がなにを言ったのか、わからせてやる。そういった思いが、雅依の中でも一周回ったのだろう。
まずは並榎を取り返す。自分が、黒服の男たちの組織に足を突っ込むことになろうともだ。だって、取り返してからでないと、後悔させられないからだ。それからはもう、身悶えしながら地面に潜り込みたくなるほどの後悔をさせてやらなければならないのだ。
こうなれば、珠花も協力を惜しまない。2人がかりででも、並榎にわからせてやるのだ。並榎が大切なことに気がつくようになれば、珠花にしたっていいことだらけなのだから。
「ったく、馬鹿じゃないの?
親も泣かせて、私たちも泣かせて、泣かせてというより引っ張り込んで、それを全然自覚していないだなんて……」
「……えっ、ソレ、どういうこと?」
並榎は、珠花に問い返す。
コイツ、完全にダメだ。
茶番劇は完璧に完成した。
「もういいっ!」
「馬鹿っ!」
雅依と珠花は揃って叫んだ。
このあと2人で並榎のバカさ加減をつまみにして飲む、キャラメルソースたっぷりのカフェミストは絶対にすばらしく美味しいに違いなかった。
一人の男子を貶すときの女子の連帯は、男子からしたら恐怖でしかないのですwww
次話から新章です。別の戦いが始まり、そして並榎たちは戻ってきます。ちょっとファンタジー色濃くなります。
ありがとうございます。




