第142話 閑話休題 雅依と珠花2ー3
「私、怖がってなんかいないよ」
そう言う珠花を、並榎は問い詰めた。
「だって、震えているじゃん」
「違う違う。
私たち人類、異世界からの敵に対して無力じゃないんだ。そう思ったら嬉しくて嬉しくて。それで震えが止まらなくて、こういうのを武者震いっていうのかな?」
もちろん、この珠花の答えはこの場のでっち上げだ。
真意は別のところにある。
もしも並榎がこの質問を、「だって、顔色悪いじゃん」と雅依に投げていたら珠花は終わっていた。雅依は、並榎の問いへの答えを取り繕わない。その必要がないからだ。振られる前提の珠花だから、並榎との関係に踏み込まないように誤魔化すしかなかったのだ。
ここで雅依が動いた。
珠花の茶番に付き合ってはいられないと思ったのだろう。
いきなり並榎の右手を掴み、強く引いて振り返させる。
「ちょっと、並榎!」
「なに?」
雅依は激怒している。珠花もその怒りが痛いほどわかっている。だけど、肝心の並榎はまったくわかっていない。
「アンタ、どういうつもりよっ?」
「わからない。
『どういうつもり?』って、なんか僕は変なこと言ったかな?」
雅依が並榎を引っ叩かなかったのは、並榎が怪我をしていたからだ。それくらい雅依は怒っている。
そうと自覚せぬ間に、珠花の口からは大きなため息が漏れていた。雅依と必死で張り合い、告白させないように手を打ってきた自分が馬鹿みたいに感じたのだ。
これでしばらくは並榎と雅依は、告白とかそんな話にはならない。だが、珠花はそれに安堵するより雅依の怒りの量と同じ分だけ呆れ返っていた。
「……わかんないの?」
「わかんない」
「ま、並榎だしね」
自分の口から出る言葉の辛辣さを、珠花は自覚していた。
雅依とはライバルのはずなのに、雅依のために怒らねば、とすら思っていた。
「あのね……」
雅依がそう切り出した。切り出しはしたが……。
あまりのことに、雅依は雅依で不安になってしまったようだ。「自分を、自分との関係をどうするつもりなのか?」と聞くには、自分が思われているという自信が必要だ。そうでなければ、並榎の人生の自己選択に文句を言う、イタい女子になってしまうからだ。
しかたなく雅依は、「自分」を「並榎の家族」に置き換えてその意志を聞いた。並榎の近くにいる人たちのことを考えているのか、と。
だが、並榎は雅依の真意に気が付かない。
「宮原の言いたいことはわかるよ」
そう言葉を切り出した並榎の返答は、雅依のことについて、かすりもしない。
なんでそこで鴻巣の話になるのだろうか?
あまりのことに雅依は涙声になって、自分とではない未来を選択する並榎に抗議する。告白前に振られてしまい、振った方は無自覚なのだから怒りと情けなさでいっぱいになってしまうのは無理もない。
この並榎と雅依のあまりにすれ違った会話を聞いていると、珠花は一周回って笑えてくる。それが珠花という人間である。自分も当事者で深刻になっているからこそ、切っ掛けを与えられたら水底の風船のように抑えようなく気持ちが浮かび上がってしまうのだ。
そして、並榎はさらに演説を打つ。鴻巣がいかに広い視野を持っていたか、と。
そんなこと、雅依と珠花にとってはもう片付いた問題である。「アレは赤羽とは別角度にぶっ飛んでるから論外だ」と。
珠花は笑いをこらえて聞く。
「さっきの人たちは、さらにその上を行っていたって?」
と。
並榎はその問いに、さらに大真面目に答える。
雅依はさらに呆れ返っているに違いない。
第143話 閑話休題 雅依と珠花2ー4
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