第141話 閑話休題 雅依と珠花2ー2
その間にも、並榎と黒いスーツの男たちの会話は続いている。
「わかってくれるなら話が早い」
「いいえ、わかりません」
雅依と珠花、ともに信じられない面持ちで並榎の背中を見る。
並榎はなんで、「わかった」と言ってこの場を切り抜けないのか?
わざわざこの場で、喧嘩を売るようなことをしなくてもいいではないか。はいはいと話を聞き、この男たちが帰ってから好きにすればいい。
なのに、なぜ並榎はこういう行動に出たのだろう?
並榎に、こういう種類の愚かさはなかったはずなのに……。
「反攻作戦が開始されるんですね?
どういう形になるかまではわからないけど、これから2年の間に……」
「ああ、そうだ」
並榎の問いに、黒いスーツの男が答えている。雅依と珠花は安心した。
ああ、並榎は愚かなんじゃない。黒いスーツの男の性格を見切って、情報を引き出したんだ。
今回の蒼貂熊との戦いの前だったら、こんな腹芸、並榎は使わなかった。いや、使えなかっただろう。
並榎、さすが過ぎる。
そう思った珠花は、この男たちに感謝の念を抱いた。だって、この男たちが現れなかったら、並榎と雅依は思いを伝え合い、付き合う関係になってしまっていただろう。だけど、事態がこういう形に動くなら、珠花にもまだチャンスがあるかもしれない。
並榎が、珠花を振ることにためらいを見せていたのも事実だ。これ、雅依と珠花に二股をかけようってことではないのはわかっている。つまり、珠花のことを可哀想だと思っているのだ。
言い方を変えれば、珠花のこと認識するようになっている。珠花は、並榎の心をこじ開けつつあるのだ。必要なのは時間だ。時間さえあれば、並榎を雅依から奪うことができるはずだと珠花は思う。
そろそろ話も終わるようだ。
珠花は作戦を練る。ここで、男たちが去ったあとの第一声を考えておかねば、なのだ。それ次第で、さらに雅依を牽制できるだろう。
「最後に、こちらからも質問があります。お帰りになる前に、これだけは教えて下さい」
「なんだ?」
まただ。珠花は不安になる。並榎、今度はなにを言い出すのだろう?
「あなたたちにもう一度会いたいときは、どうしたらいいですか?」
「……その必要は認めない」
「就職先にしたいんです」
珠花は、並榎の言葉に頭を殴られたような衝撃を感じた。今まで考えていたことが、すべて吹っ飛んで無駄になってしまう。雅依から並榎を奪えたとしても、その並榎がいなくなってしまうのではお話にならない。そもそも、雅依に気があるって前提自体が崩れてしまう。
……さらに会話が続いたあと、黒いスーツの男たちは立ち去っていった。
「並榎君。今の……」
珠花の震える声に、「ごめん。僕が悪かった」と並榎は謝ってきた。
珠花は、並榎の真意が理解できなくて、「それ、どういうこと?」とそのまま聞き返した。
「えっ、僕が素直に頷いていたら、北本がそこまで怯える前に話が済んだかもしれないって……」
「私、怖がってなんかいないよ」
そう答えながら珠花は思う。並榎ってば、なんでここまでピントの外れたことを言っているんだろうか。並榎は、私どころか雅依と一緒の時間すら要らないと決断したことに気がついていないのだろうか?
あれほど雅依のことを思っている素振りを見せておいて、全部ご破産って言っているに等しいのに、それに気がついていないのだろうか?
珠花は思う。
珠花は思う。
私たちは高校3年生だ。大学で一緒のところに行けるとは限らない。なのに、あのような組織への就職の話を今からしてしまうということは、雅依と珠花に関心がないと言っているに等しいのだ。なんでそこに並榎は気が付かないのだろう?
当然のように雅依の顔色も蒼白に近かった。
当然のように雅依の顔色も蒼白に近かった。
第142話 閑話休題 雅依と珠花2ー3
に続きます。




