第137話 鴻巣の遺言8
北本の言葉を全面的に肯定したうえで、僕はそれでも反論する。
「だけどさ、みんながそう考えたら、誰もあの人たちの仕事をしない。そうしたら、僕たちの世界は確実に負ける。
このあたり、もうどうしようもないんだけど、蒼貂熊が攻めてきたとき、僕は弓を握った。握らない選択もあったとは思うけど、僕は握ったんだ。
学校全員の生命を救いたいなんてことは、まったく考えてなかった。絶対無理なのはわかっていたから。積極的に戦って蒼貂熊を殺してやろうとも思わなかった。生き物を好んで殺したいとも思わなかったから。
だけど、それでも、戦わないという選択はなかったんだ。この決断は、宮原も北本も同じだと思うんだけどな」
「……」
なんだよ、2人揃ってだんまりかよ。
「僕のさっきの決心は、それに続いた延長なんだよ。だから、僕自身には違和感がなかったし、2人にはわかってもらえると思っていた」
ぼくはさらにそう続けた。
……なんで、2人揃って僕から目をそらすんだ?
「今だって、僕は人類を救えるなんてだいそれたことは考えていない。個人でそんなこと、できるはずもないし。だけど、それでも組織という形で人数がまとまって効率的に動けたら、もしかしたら救えるかもしれないじゃないか。そういうのが見えているのに、目を逸らし続けることは僕には難しい。
宮原、北本、君たちはそれについてどう思うんだよ?」
「うるさいっ」
……なんなんだよ。宮原、なんでいきなり怒るんだよ。
「知らなければよかった。でも知っていて知らんぷりは難しい。だって、自分自身の生命にも関わることじゃないか。すでに誰かが立ち上がっているのなら、それに協力して……」
「うるさいって言っているでしょ」
今度は北本かいっ。
だから、なんで怒るんだよ。
これはもう、僕にはわからない。なに言っても怒られるのなら、間をおいた方がいい。この2人、頭を冷やしたら、絶対に理解してくれるはずなんだから。
「さっきから顔色悪いんだよっ!
さっさと病院に戻れっ!
卒業生については調べておくからっ!」
えっ!?
宮原、どういうこと?
そんなに僕、顔色悪くて、ダメっぽいかな?
それに、今すぐ調べようなんて思ってないぞ。
「ったく、馬鹿じゃないの?
親も泣かせて、私たちも泣かせて、泣かせてというより引っ張り込んで、それを全然自覚していないだなんて……」
「……えっ、ソレ、どういうこと?」
僕は、北本に問い返す。
「怪我なんかすぐ治る。一ヶ月もかからないだろう。それから自分で調べたっていいんだ。調べてくれるのはありがたいけど、なんでそんな『引っ張り込んで』なんて言うんだ?」
「もういいっ!」
「馬鹿っ!」
な、なんなんだよっ。
そこまで言われるような、なにか馬鹿なことをしたかな、僕は。完全に濡れ衣じゃないか。それなのに、そんな、不当に怒られるだなんて。
いいよ、いいよ。
怪我人は病院に戻りますって。
2人で僕のことを貶していればいいさ。
第138話 雅依と珠花
に続きます。




