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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第136話 鴻巣の遺言7


 僕の言葉に、宮原は聞き返してきた。

「並榎の言う、怯えって?」

 ……なんか、心外そうだな。外目から見て僕は、そういうふうには見えていなかったのかもしれない。


「物書きだった僕の叔父さんは、僕のあこがれの人だった。繊細なのに強くて、目的に向かう姿勢の純度が高くて理想の大人だったよ。僕が自分を『僕』と称するのも叔父さんの影響だ。『なにか大きなものに仕える存在』って意味らしい。叔父さんは、自分の人生をどう使うかは自分で考えろって、 僕に言ったことがあるんだ。

 だけど、叔父さんは若くて横死した。……いろいろあって首を吊ったんだ。

 それ以来、ずっと僕は怯えている。未来にも、社会にも、死ぬことにも、死を選ぶしかない状況にも。

 だけど、鴻巣も、さっきの人たちも、そういうのとは無縁だった。そして、僕よりも、記憶の中の僕の叔父さんよりも、もっともっと遥かに純度が高く生きている。それに比べたら、僕も叔父さんもあまりに弱かった。

 僕は、改めてそこに憧れたんだ。僕は、もっと目的に向かって生きられる。そして、トラウマとかPTSDとかに影響されずにフラットに生きることもできるんだ。そして、僕はそう生きたい。怯えるなら、真っ先に自分の中にではなく、自分の外の存在にしたい。

 だからね、鴻巣の思考に引かれたってのがないとは言わないけど、それは僕からすれば理由としてはたいして大きくないんだよ」

 肩で息をしながら、僕は一気に宮原と北本に話していた。


 医者の言うことは正しかったな。

 話ながら、僕はそう思う。あまりに手術の跡が痛い。痛み止めが切れてきたんだ。やっぱりまだ退院できる状態じゃなかったらしい。

 でも、僕には宮原にきちんと話す義務がある。もしかしたら北本に対しても、だ。


 僕だって男だ。女子に弱みを見せるのは嫌だし、忸怩たる思いもある。口から出る言葉が止まってしまうこともある。

 だけど、ここまで話さなきゃ宮原は納得しない。それだけはわかる。だから話した。もちろん、顔は痛くないふりを続けてだ。


「もちろん、宮原の言うこともわかる。決して表の仕事じゃない。

 でも、それについては僕はこう考えている。

 1つ目だけど、裏は裏だけど、反社とかの犯罪組織とかの裏ではない。そういう意味では綺麗じゃないか。黒いかもしれないけど、その黒は汚れた結果の黒ではないと思うんだ。

 それから2つ目だけど、これから裏が裏でなくなる時代が来てしまうと僕は思う。異世界と戦争になって、異世界との出入口があるこの国が最前線になったら、あの人たちの組織は表返りすると僕は思う」

 宮原は、僕の言葉に下を向いた。だけど北本は、僕の顔から目を逸らさずに反論してきた。


「並榎の言うことはわかるよ。だけど、それでもリスクは高いじゃん。

 たとえば、あっさり異世界との戦争に勝てたら、一生をまた裏で過ごすことになる。長引いたら長引いたで、死ぬリスクが極めて高くなる。そして負けたら、確実に殺される。

 それでいいん?

『きれいな仕事ではないし、報われることなどない』ってのは、マジで言っていたと思うよ。私も『もっと良い働き口はいくらでもある』と思うし」

「そうだな。僕もそう思うよ」

 ここは僕も否定しなかった。もう、完全に北本の言うとおりなんだ。

 汚れていないというのは、きれいを意味しないことぐらい、僕だってわかっている。

第137話 鴻巣の遺言8

に続きます。

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