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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第134話 鴻巣の遺言5


 黒服の男は口を開く。

「我々は……、いや、我々人類は、最後まで本気で戦うことが必要だ。

 戦いに手を抜いて、自ら犠牲になるこちらの一群を見たら、敵はどう判断するかということだ。

 つまり、欺瞞で敵を騙すなら、どこまでも本気でなければ騙せないんだ。フェイントらしいフェイントで騙されてくれる敵など、どこの世界にもいない。井野君がそういった視線も持って戦いを導いていたようだが、彼はまだ甘い。自分がどんな作戦をとるかは、敵からどう見えているかを片時も忘れず考え、その上で決定せねばならないことだ。こちらの都合で決めるものじゃないんだよ。

 並榎君たちは、最後まで本気で戦った。その結果がこの生存率の高さだ。この数字があるからこそ、異世界の敵は我々がその意図に気がついていないと判断するだろう」

 一呼吸して、ようやく僕の頭の中で理解が追いついてきた。


 逆説的なんて言葉があるけど、これ、何重に逆説が重なっているんだろう?

 そして、今、ひょっとして僕は褒められたのかな?

 それと、これは僕の思考がこの先ずっと鴻巣に束縛されるのを防いでくれたのかな?

 ということは……。

 さっきの舌打ちは、きっとこの人、自分自身の甘さに対して苛立ったに違いない。こういう人たちが、一高校生の心の問題なんて、本来なら知ったこっちゃないはずなんだから。


「よくわかりました。僕の力の及ぶ限り、この鷹ケ楸高校の生徒からはSNSにおかしな話が出ないようにします。

 最後に、こちらからも質問があります。お帰りになる前に、これだけは教えて下さい」

「なんだ?」

「あなたたちにもう一度会いたいときは、どうしたらいいですか?」

「……その必要は認めない」

「就職先にしたいんです」

 目の前の男たち、初めて動揺した。今まで、高度に訓練されたのが窺える動きで迷いなんかなかったのに、初めて視線を合わせあって迷っている。僕は、それを信じられない思いで見つめた。


「やめておけ。

 嫌われ、怖がられるのが仕事だ。きれいな仕事ではないし、報われることなどない。もっと良い働き口はいくらでもある」

「でも、必要な仕事です」

 男たちは口元に笑みを浮かべた。だけど、その笑みはあまりに苦いもののように見えた。


「そうだな。それは間違いないな。

 では、毎日10km走れ。それからこの高校のOB、平成20年卒を調べろ。並榎君に意欲と能力と運があれば、再び会うこともあるだろう」

 そう言って、男たちは僕に背を向けた。

 その背中は、もう崖のように絶対的なものだった。僕が声を掛けてももう返事はおろか、振り返りもしないだろう。


 教室を出ていく彼らを見送り、気がついたら僕の右手は宮原が、左手は北本が握っていた。

 北本はよほどに怖かったのか、全身ががくがくと震えている。蒼貂熊を前にしてもこんなことはなかったな。北本にとっては、黒づくめの男たち、蒼貂熊より怖い相手だったのかもしれない。

 宮原の手も、氷のように冷たい。ものすごい緊張をしていたんだな。



「並榎君。今の……」

「ごめん。僕が悪かった」

 北本の震える声に、僕の対応が不必要なまでに怯えさせてしまった原因かと思って、まずは謝った。

 だけど、北本は心底心外だって感じで聞き返してきた。

「それ、どういうこと?」

 って。


「えっ、僕が素直に頷いていたら、北本がそこまで怯える前に話が済んだかもしれないって……」

「私、怖がってなんかいないよ」

「だって、震えているじゃん」

「違う違う。

 私たち人類、異世界からの敵に対して無力じゃないんだ。そう思ったら嬉しくて嬉しくて。それで震えが止まらなくて、こういうのを武者震いっていうのかな?」

 そっか。

 言われてみれば北本、蒼貂熊から開放されて、それからずっとおとなしかった。それって、もしかしたら絶望していたのかもしれない。

 今は助かったけど、この先生きていても人類に未来なんかないって。

 それが否定されたんだもん、興奮するよな。


第135話 鴻巣の遺言6

に続きます。

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