第132話 鴻巣の遺言3
僕の視界の隅で、宮原が動いた。僕の後ろから出てきて言う。
「あなたたちはなんなんですか?
なんで学校に入り込んできたんですか?
不審者として通報しますよっ!」
かなり強い口調だったけど、あまりにも当然なことのように、男たちは微塵も揺るがなかった。
それどころか、完全に黙殺している。世の男たちはJKには優しいものだと思っていたけど、ここまで完無視って初めて見た。
そして、真ん中の男がなにもなかったかのように、僕に向けて口を開いた。
「並榎君。
君に要請があってきた。今後2年間、一切のネット上での活動を控えてもらいたい」
こいつら、必要なことしか言わない。ある意味、見事すぎるな。でも、そのお陰でどういうことが起きているのか、僕にもわかってきた。
「蒼貂熊の襲撃、他の学校はどこも散々な有り様だったようですね。
先生も生徒もたくさん喰われたとニュースで見ました。100人以上が犠牲になった学校すら珍しくないとか。そんな中で、僕たちの生還率は日本一だ。発言力は無視できない。そういうことですね?」
「わかってくれるなら話が早い」
「いいえ、わかりません」
黒づくめの男たちは、僕の返事に表情も変えなかった。そして、僕の後ろで宮原と北本が息を呑んだのがわかった。
「理由を聞かせてもらおうか」
たぶん、今の僕に一番驚いているのは僕だろう。
こんなヤバい感じの相手を前にして、言いなりにならないなんて選択は、ついこないだまでの僕にはなかった。
この男たちは本気で怖い。だけど、トイレの中で半ば意識を失いながら蒼貂熊に対抗し続けたことに比べたら、あまりに微温かったんだ。
この男たちが、例えば銃を出して僕を脅したとしても、なんか違うとしか思えないだろうな。そりゃあね、銃は怖い。だけど、至近距離をかすめる蒼貂熊の爪や牙に比べたら……、って、コレ、僕は恐怖を感じる心の働きが壊れちゃったのかもしれない。
そこでさらに気がついた。コレじゃダメだって。
怯えてみせた方が、この黒尽くめの男たちも納得するかもしれないというのに、僕は顔色も変えていない。
それはともかく、目の前の男の問いは無視できない。答えなきゃいけない問いだ。
「さっき言ったとおりで、僕には本当にわからないからです。
他校ではたくさんの人が死んだ。だけど、我が校では生徒の死は、1人という数で抑え込めた。だから、みんなを守った実績がある僕という存在が、注目を浴びるということはあるかもしれない。そして、その注目を浴びている状態の僕が、鴻巣の残した言葉を叫んだら、あなたたちには都合の悪いことになる。そういうことですよね?」
「わかっているじゃないか」
「いいえ、わかりません」
再び僕とその男は、同じ問いを繰り返した。
「被害は郊外に位置する私立高が大きかった。開放的でオシャレな作りのところは、バリケードすら組めませんでしたからね。ウチも含めて古い建物の学校の方が守りやすかったし、そもそもあまりに街中の高校には蒼貂熊が入りませんでした。
僕はすぐに、運が良かった作られた英雄として貶されるようになりますよ。
そして、鴻巣が語ったことは、そのうちにみんな気がつくことです。なので、ここで僕たちに口止めする意味はありません」
目の前の男たちは、僕の言葉に初めて笑みを浮かべてみせた。
第133話 鴻巣の遺言4
に続きます。




