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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第130話 鴻巣の遺言1

第130話 鴻巣の遺言1 

 翌日。

 僕たちが地域防災センターに閉じ込めた蒼貂熊(アオクズリ)、ぐがぐずに崩れて発見された。僕は気がついていなかったけれど、いつの間にか北本が刃物という刃物に赤紫蘇を塗り込んでいたんだ。

 どうしてそんな効果があったのかも、ネット環境を取り戻した今ならわかる。おそらくは、ペリルアルデヒドって成分と食塩が合わさったときの殺菌効果だ。

 岡部が言うには、蒼貂熊の細胞はこちらの世界の動物とは違う、菌類に近い部分があるんだろうな、と。


 その蒼貂熊、自衛隊が来て、どこかに運んでいったらしい。まだ死んでなくて、でも弱って動けないのをネットでぐるぐる巻きにして、ユニック車でトラックに積んで行った、と。行き先は当然だけど、僕たちにはわからない。


 で、この話を聞いて思い出したのは、細野の言葉だった。「蒼貂熊のフィジカルと狡猾な狩りをする知能、だけど劣勢に立ったときの諦めの良さ。この辺りは付け込む隙として忘れないようにした方がいい」ってヤツ。

 蒼貂熊は、弱って動けなかったんじゃない。単に諦めたんだ。

 だって、僕たちの経験では、蒼貂熊、根性で動き続けるなんてことはなかった。強制的、物理的に動きを止められたか、自分から動きを止めたか、だ。

 このあたりを間違うと、近い未来のどこかで、絶対にしっぺ返しがくるような気がする。だって、諦めってのは感情で、それ次第では再び動くかもしれないってことだからね。


 鴻巣の持っていた蒼貂熊への洞察とそこからの脅え、それはいつだって意味がないわけじゃなかった。それを僕たちは忘れないようにしないといけないよな。


 それから、学校に残されていた蒼貂熊の死体も、やっぱり同じように片付けられ、持ち去られたって。

 とりあえずこれだけでも、学校の再開は形ばかりは整った。バリケードを作ったり、空中懸架のために破壊の極みみたいになっちゃった教室が3つあるけど、もともと教室は余っていたんだ。だから、生徒は個々に荷物を持って、空き教室に引っ越したら終わりだろうってさ。


 むしろ問題は職員室と先生たちだった。

 職員室は完全に破壊されちゃっていたし、犠牲者が多かったのと、隠れている近くで同僚が喰われたというトラウマで病んじゃう先生も出た。先生だって人間なんだから、あたり前のことだよな。

 それでまあ、登校は自由だけど、しばらくは授業なしで自習ばっかりになりそうって話なんだ。

 

 学校のそんな状況についてお知らせは来たけど、それでも僕たちは3日後には学校に行った。

 僕自身も肋骨の手術がおわって、1日寝たあとのすぐだ。医者のもう少し寝ていろっていう言葉は半分無視した。まぁ、すぐ病院のベッドには戻るつもりだから、半分ってことだ。

 だって、「学校に行こう」ってのは、井野の提案だったんだ。


 女子の中にはもう二度と学校の建物に入りたくないって怯えているのもいたけど、「それでも出てこい」と井野はL1NEに送ってきていた。

 というのは、今、行っておかないと恐怖ばかりが思い出されて、二度と行けなくなるぞってことなんだ。だからこそ、逆に無理してでも今行ってしまえば、勝利と勝利後の日常で記憶が上書きされる。そうなってしまえば、トラウマはトラウマになりきる前に薄まってしまう、と。


 井野は、「帰宅部だから帰る」って言っていたけど、こんなこと調べていたんだな。これこそ、「治にいて乱を忘れず、乱にいて治を忘れず」だよ。で、学校に帰るというのを勧めるあたり、帰宅部じゃなくて帰校部だな。


第131話 鴻巣の遺言2

に続きます。

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― 新着の感想 ―
事故の後でも、すぐ同じ作業をやらせた方が、精神的な回復は早いってのは、宇宙兄弟で見た気がする。 後日譚も楽しみにしてます。
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