第128話 救出
「……やったのか?」
僕の呆然とした声に、「ああ」と答えたのは行田だ。
「すげー罠だったな。よくもまぁ、バリケードなしにここまでやれたもんだ」
僕の言葉に、行田は一瞬だけテレた表情を見せて、すぐに僕に言う。
「坂本を病院に。足がとんでもない向きに曲がってる」
そう言われて、僕は視線を落とす。
僕の足元で、坂本が半ば笑っているような弛緩した顔で気絶していた。そして、その足は関節がもう一つ増えているように見えた。
それを見た瞬間、僕は吐いていた。
緊張とそれからの開放、そしてありえないものを見たショック。そこで僕の精神に限界が来たんだ。
なにも食べていないから胃液だけを吐き、苦しさにえづきながら、僕はなぜか笑い転げていた。
僕と坂本は、ようやく病院に運び込まれた。皆が僕たちを担ぎ上げ、担架に乗せて走ったんだ。頭を打っていないからって、この仕打ちはヒドい。僕は担架の揺れに酔ってさらに吐いた。気絶していた坂本は酔わなくて幸いだった。
病院に着いたら着いたで、病院は地獄の混みようで、診てもらうまでにじっくりと待たされた。気絶していた坂本は、待つ間も認識していなくて幸いだった。
ようやく撮ってもらった僕たちのレントゲン写真を見て、医者は絶句していた。曰く、「運が良かったな」と。
僕は折れた肋骨が完全に位置を見失っていて、肺を傷つけなかったのは奇跡だと。これから絶対安静、腫れの状態と相談で手術になるらしい。
坂本に至っては少なくとも3度は手術が必要で、リハビリには相当に長い時間が必要だろうと。でも、治るんならいいよな。そう思ったら、さらに僕は笑えてきた。
病院に駆けつけた父と母は、笑い転げる僕を本気で心配していた。身体のことより、頭と心の方を、だ。
だけど、僕にはわかっている。僕は勝った。そして生きている。その生きていることの謳歌がこの笑いなんだ。
他の連中の情報も入ってきた。
中島梢暖の骨折は、固定だけで治ると。きれいにぽきんと折れていたので、かえって処置は楽なんだそうな。
間藤紗季は昏睡が続いているけど、脳内の出血は免れているから近いうちに目を覚ますだろう、と。なにはともあれ、冷やせていたのは良かったらしい。
蔵野は手の怪我を縫いまくられて、機能は失わないけど傷跡は一生残ると。本人は改造人間に昇格したと喜んでいるそーだ。
五十部も骨にボルトが入り、麻酔が覚めたあとに「補強工事終了」と叫んだそうだ。
上原の足は酷い捻挫だと診断されたけど、骨は異常なかった。しばらくは安静だけど、「弓は座っていても引ける」と言って医者に呆れられたそうだ。
男子ってのはつくづく本当に馬鹿だな。
救急車で運ばれて一番問題がなかったのが松井莉花。薬をもらって終わったそうだ。
そしてさらに……。
救急隊が、もう蒼貂熊はいないということで救助に入ってくれた。その結果、音楽の武藤先生と保健室の篭原先生、体育の先生たちと職員室で隠れていた先生たちが救出された。
でも、亡くなった先生も6名。鴻巣の遺体も回収された。
そして、たった一つだけだけど朗報が。
赤羽が生きていたんだ。
第129話 答え合わせ
に続きます。




