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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第127話 決着


 女子たちの悲鳴が湧いた。周囲はアスファルトとコンクリートしかない。いくら坂本が空手で全身を堅く鍛えていたとしても、そこに叩きつけられれば生きてはいられないだろう。


 僕は弓を放りだし、地面から槍を拾った。今こそこいつには、槍から包丁に戻ってもらわないとだ。

 シャッターの下から突き出された蒼貂熊の腕に、僕は槍を短く持って包丁として切りかかる。切りかかると言っても、床を這う腕だ。まな板の上の肉を切るのと同じ感覚だ。戦う感覚じゃない。


 ……驚いた。さすがは包丁だ。

 叩きつけてもぜんぜん切れなかったのに、押さえつけるようにして切ると、蒼貂熊の腕に刃が入った。力を入れて、ぎこぎこと刃を動かす。坂本の顔が苦痛にゆがむ。

 シャッターのすぐ横だから、その重みで腕の動きは鈍い。僕でも追いついていけるほどだ。

 蒼貂熊の腕から、オレンジ色の血が吹き出してくる。

 僕はめまいと蒼貂熊の悪甘い体臭をこらえて、必死で刃を動かす。


 これ、戦うのとは違う辛さだ。

 魚の活造りとか作るとき、板前さんはこういう感覚になるのかもしれない。生命感があるものを切るって、こんなに辛いものなのか。


 蒼貂熊の腕が坂本を振り回そうとする。

 だけど、そうなると腕の筋肉が固くなって、さっくりと切りやすくなる。むしろ力を抜かれていて、ぐんにゃりとしている方が切りにくい。

 そのあたりのせめぎあいがあって、結果として坂本は振り回されはしなかった。だけど、坂本の足を締め付ける力は容赦なく増していった。


 坂本の悲鳴のような声が聞こえる。痛みのあまり、黙っていられないんだ。だけど、それでも坂本は最後まで「痛い」とは言わなかった。

 早く神経まで切らないと、坂本の足が潰されてしまう。僕は焦りまくりながら、電柱を包丁で切るような努力を続けた。


 そこへ、背中から衝撃。

 宮原と北本が僕の背中に体当りしてきたんだ。

 振り返る間もなく僕は首をすくめる。その僕の頭のあった位置を、蒼貂熊のもう1本の腕が通り過ぎた。

 間一髪だ。タイミングがずれていたら、蒼貂熊の腕から生える爪に首を落とされていた。


 僕は、そのままその場から、宮原と北本に引きずり出されていた。

 これはもう、ヤバすぎる。シャッターの隙間から蒼貂熊に両手を出されたら、もう手の打ちようがない。

 僕は絶望的な気持ちになった。このままだと、坂本が殺されてしまう。

 さすがに包丁は手放さなかったけど、とてもじゃないけど近づけない。


 そこへロープが飛んだ。それは、カラビナで輪っかが作られていて、そのまま蒼貂熊の腕に巻き付いた。

 ロープの端を握っているのはボランティア部の喜多。

「今のうちにっ!」

 喜多の叫びに、僕は再び包丁を握りしめて蒼貂熊に立ち向かう。


 わらわらと3年生と1年生が、我先にと喜多の持つロープを掴む。さすがに10人がかりともなれば、蒼貂熊の腕と言えども動きが止まった。

 僕は、オレンジ色の血でぬるぬる滑る槍の柄を持って、再び蒼貂熊の腕と格闘する。


 ヤバい!!

 蒼貂熊が、腕をシャッターの内側に引っ込めようとしている。坂本が引きずり込まれたらおしまいだ。

 僕は必死で蒼貂熊の腕に取り付いた。奥と佐野も、坂本に巻き付いた腕にとりついて、必死の形相で引っ張る。


 ごきりという、不気味な音が坂本の足から響いた。

 坂本の断末魔の苦鳴が響き、それとほぼ同時に僕の持つ包丁はより深く刃を進め、蒼貂熊の腕はぐんにゃりと力なく垂れて坂本を解放していた。

 そして、しゅるしゅると蒼貂熊の両腕は吸い込まれて行き、同時にシャッターは降りきっていた。

第128話 救出

に続きます。


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