第125話 最後の戦い
一瞬だけだけど、僕、宮原と目が合った。
その一瞬で僕は、宮原とすべてがわかり合えた気がした。
鉄パイプの槍衾は蒼貂熊を貫いたじゃないか。すごい罠だと思う。僕たちはまだまだ戦えるってことだ。
倉庫のような地域防災センターの建物の中から、蒼貂熊がこちらを睥睨する。高いところから見おろされると、倍ぐらいに大きく見えて恐怖も倍増する。
だけど、それに負けじと坂本と吹上が槍を投げる。だけど、それは速度の違う2本だったのに、意味を持たなかった。理由は簡単なことだ。もう投槍の威力を学習したのか、蒼貂熊は避けもしなかった。そして当然のように、当たっても刺さらなかったんだ。文化包丁の丸い切っ先では役者不足なのか、それとも最初から人の投げた槍程度の威力じゃ刺さらないものなのか。
宮原と僕は矢を放った。
容赦なく、最大に引き絞っての僕のベストの射だ。
だけど、だからこそ、蒼貂熊は簡単にそれを掴み取る。そして、その口に奥と佐野の放った赤紫蘇ボールが炸裂していた。
宮原の矢は、蒼貂熊の右の真ん中の目に突き立っている。僕の矢のスピードが、蒼貂熊の視界を撹乱したんだ。
北本だけが、ガラス瓶の重さと蒼貂熊の方が高いところにいるということで、投げられずにいる。
シャッターは下り続けている。
3年生たちは、続々と逃げ出してくる。地域防災センターの高い床から飛び降りて走ったり、横のアルミサッシのドアから走り出したり、だ。
蒼貂熊、高い床の際、トラックが着くプラットフォームの前で立ち止まる。そして、再度咆哮を上げた。痛みをを感じているのか、してやられたことでいらだちを感じているのか、それはその表情からは窺えない。
トラップ以降の僕たちの攻撃は、あまり役に立っていない。
毒が効くにしても、赤紫蘇に即効性はない。つまり、この場での動きは止められていない。
このままだと、蒼貂熊がプラットフォームを飛び降りて、僕たちを好きに喰うのを止める手段はない。僕たちの闘志は萎えていないけど、次の有効な一手がなくて動きを封じられないんだ。
そこへ、僕たちの後ろから高い声が湧いた。
一瞬だけちらっと振り返ると、並んでいる1年生たち。今までどこにいたんだろう?
そして、真ん中にいるのは合唱部の西山莉愛。
蒼貂熊、びくっと動きを止める。共振の唸りのせいだ。高く低く唸りは続き、蒼貂熊はその場で戸惑いを見せ続けた。
その首筋についにシャッターが触れ、押し下げていく。
「事故防止の自動停止センサーは壊してある。シャッターは下り続けるぞ」
どこにいるのか、行田の声が響いて槍を持った坂本が走る。
僕は、曲がってしまったのを真っ直ぐにして再生した矢に、アルトリコーダーの吹き口を被せる。
ほら、来た。
当然のことだ。頭を抑えられて、なにも抵抗しない蒼貂熊じゃないよな。あまりの力に、シャッターは止まるどころか押し戻される。きっと、閉じ込められることを理解しているんだ。かといって、一歩外に出るのには、共振の唸りが怖い。だからこの場で抵抗を始めたんだ。
僕は再び矢を放ち、それはリコーダーの甲高い音を立てて蒼貂熊に向かって飛ぶ。
暴れ出したはずの蒼貂熊は、その音の急迫に再び硬直した。そこへまた宮原の最後の矢と2つのボール、1本の槍が飛ぶ。
僕たちの攻撃手段は、これしかない。それももう尽きる。だけど、それらは蒼貂熊に当たっていた。僕たちも学んでいる結果だ。
3たび蒼貂熊は硬直し、再びシャッターが降りだした。
そのシャッターと床の隙間から、槍を持った坂本が蒼貂熊に駆け寄るのが見えた。
第126話 シャッター攻防戦
に続きます。




