第124話 閑話休題、先行隊4
上尾は、みんなの視線の中で、自分の考えを話した。
「まずは、最悪の想定で話すよ。
蒼貂熊、並榎たちを喰ったら私たちのニオイを追ってここまで来る。そして、籠城している私たちを喰おうといろいろとするはずだ。だけど、私たちが出ていかなければ話は終わり。どこかの誰かが蒼貂熊を追っ払ってくれるまでここから出られないけど、死ぬことはないと思う。
でもさ、並榎たちが逃げて走ってきたら?
私たちは、シャッターの外で並榎たちが喰われる音を最後まで聞く?」
誰もなにも言わない。
これが、上尾の話の前フリだとわかっているからだ。
「じゃあさ、並榎たちが逃げて来たときに、このシャッターが開いていたらどうなると思う?
意地汚い蒼貂熊は並榎たちを無視して、人数の多い私たちを襲おうとこの高床のプラットフォームに飛び乗ってくるよね。
で、私、前にライブ中に歌いながらぴょんぴょん跳ねていたら、マイクケーブルを踏んじゃって、それが転がって、足首を捻挫したことがある。
だから、ここに丸いものを敷き詰めておけば、飛び乗ってきた蒼貂熊は止まれない。あとは言わなくてもわかるでしょ」
「なるほど。石車に乗せちゃえばいいってことか」
そう言ったのは漫研の横田夏帆だ。
「私も、道路のアスファルトの上の砂利が石車になって、転んでメガネを壊したことがある。だから、絶対うまくいくよ」
せっかくの援護射撃なのに、誰も横田に反応しない。
それは期せずして全員が「それは鈍クサいからじゃないのか?」と思ったからだ。でも、さすがにそれを口に出す者はいない。
「なら、シャッターは半開きがいいな。床と飛び込む角度が少ないほどよく滑るはずだからな」
「行田、さっきまで反対していたけど、変節したか?」
「やかましい。岡部、オマエにはこういう案は出せなかったじゃねぇか」
相変わらずやり合いながらも、行田の頭はフル回転していた。
「蒼貂熊は賢い。転がるものがみんな同じ向きを向いていたら、こちらの考えは見破られると思っていい。だけど、ここには乾電池から缶詰、台車に至るまで転がるものがたくさんある。それを乱雑に配置するだけで、蒼貂熊には見破られなくなるんじゃないかな。で、奥に鉄パイプの槍衾を作っておく、と」
「甘いな、行田。その乱雑なものの間を逃げる、囮の俺たちが転んだら意味がないぞ」
「そのとおりだ、細野。それに、もっといい手があるぞ」
岡部がさらに行田の案に異を唱える。
「シャッターを半開きじゃなくて、全開から下ろしていくんだ。そうすると、蒼貂熊、焦って飛び込んでくる。締まり切っちゃう前に、って。
ほら、1年生の上原が蒼貂熊を屋上から落としたとき、俺は蒼貂熊が焦ったように感じた。今回も、焦り慌ててもらえばいいさ」
「けっ、岡部、たまにはいい案も出すんだな」
相変わらずの貶し合いに、上尾が割り込んだ。
「いい加減、そういう言い方やめなよ。
行田のと岡部のと、両方やればいいじゃん。細野の注意喚起はきちんと受け止めて、囮になるのは3年生だけにしとこ。
ほら、全部取り入れても利害は対立しないでしょ」
上尾はそう言って、自ら「うんうん」と頷いてみせる。しかし、理系3人は、「そういうんじゃないんだけどなぁ」という顔であいまいに頷いた。
そして、3年生の話し合いはさらに続いた。
第125話 最後の戦い
に続きます。




