第123話 閑話休題、先行隊3
上尾の声に、3年生たちが集まってきてがやがやと話し出した。
「バリケードにしようにも、机みたいにできあがったブロックでないのが痛いな。積み上げるってのができないぞ」
「防御が無理でも、武器にはなるだろ?」
「この鉄パイプ、その割りに細いぞ。武器にしたって、これでどうにかなるとも思えん。全員で1本ずつ持って戦いを挑んでも勝てる気がしない」
「突き刺すなら、机の足と同じで、なんとかして鋭くしないと武器としての効き目はないぞ」
「これで貫けるなら、居合刀でももう少し役に立った。というか、鋭さよりも刺すための力が必要だ。俺の渾身では足らなかったんだ……」
最後にうめいたのは剣道部の長尾だ。
それは、誰の言葉よりも説得力に満ちていた。なんと言っても、経験者の戦訓である。
「力があれば、これでも刺さるのか?」
「正直に言えばわからない。だけど、鉄より強い生物なんて存在しないはずだ。やり方次第では、絶対あの筋肉を通るはずだ」
誰かの問いに答える長尾に、その場は静まり返った。
あまりに当然のことだが、剣道部の渾身の突きが通らないという蒼貂熊相手に、自分ならそれ以上のことができると宣言できるほどの脳天気はいなかったのだ。
「質量が違いすぎるからなぁ」
行田のうめき声だけが響く。
「赤ん坊が巨大なプロレスラーに立ち向かうのと同じ無謀さなんだから、そこで細い鉄釘持ったからって、互角になるはずもないか……」
行田のうめきを細野が受けて、さらに無力感が周囲を支配した。
「だけど、どうにもならないとは言い切れないぜ。
赤ん坊が釘を床に立てて持っていて、そこを踏み抜かせれば……」
「馬鹿か、岡部。
そういうのは屁理屈で、アイデアとも言えない。ブレーンストーミングは『アイデアを批判・評価しない』ってルールはあるけど、オマエのは限界がある」
行田の言葉に、岡部はむっとした顔をした。
先ほどからの理系3人組の遠慮と容赦のないやりとりの延長ではあるのだが、だからこそリスペクトのない「馬鹿」という単語に反応してしまったのだ。
「罠ならそういう状況を作れるだろ。作戦込みで考えることだってできるはずだ。なんでその想定も否定するんだ、この馬鹿」
「舗装道路やここのコンクリの床に穴が掘れるわけないだろ。落とし穴に刃物を仕込むって、現実には無理だぞ。そもそも落とし穴の上を通らせるのが一苦労なんだから、こんな広い空間では苦労して掘るだけ無駄だ。そんなこともわからないから、馬鹿なんだ」
岡部と行田、口喧嘩の勢いでの、いや、完全に口喧嘩での議論である。
「落し穴以外にだって、罠はあるだろ。なんで最初から決めてかかるんだ?
視野、狭すぎだ」
「もっと無理だろうが。重力でなければ、自分からぶつかって行かせるしかない。で、どんな罠なら、蒼貂熊が尖った鉄パイプに自分からぶつかりに行くんだよ?
俺たちが食い物の囮になってすら無理だぞ。言っていることが完全に空想論じゃんか」
「なら、その罠で、転させればいいじゃん」
細野が横から口を出す。
「四つ足の動物は、まず転んぞ」
「岡部、オマエな、なんで自分で俺の出した助け船を沈めるんだよ?」
細野がそうボヤき、周囲の3年生から期せずして笑い声があがった。
「できるよ。それ、できるから」
そこで高い声でそう宣言がされ、全員の視線がその声の主、軽音部の上尾珠花に向いた。
第124話 閑話休題、先行隊4
に続きます。




