第122話 閑話休題、先行隊2
嬉々とした行田の声が響く。
「あったぞ。喜べ。鉄パイプだ。岡部の読みどおりだ。組み立て部材も入っている」
岡部はガッツポーズをとり、細野は「ちっ」と舌打ちをした。細野だって鉄パイプの存在は嬉しいのだが、岡部の機嫌の乱高下がウザかったのだ。
そして、この細野の舌打ちは、3人の関係性を決定的に位置づけた。
サイエンスこそが、彼らの繋がりである。そして、そこに取り繕いの必要は認めない。煽り合っていくスタイルではあるが、当然その根底には互いの知識に対するリスペクトがある。だからこそ許し、許されるのだ。
「すぐに組み立てよう。
行田、これでバリケードを組むには、どうしたら強度が出る?」
細野の問いに、行田は答える。
「それ以前に、この鉄パイプ、トータルでどれくらいの量があるんだ?
あればあるほどいいけど、布を立てるだけの骨だぞ。そうはないんじゃないか?
それがわかんなきゃ、設計なんかできねぇ」
正論だった。これには岡部と細野、なにも言えずに共に無言でぱたぱたと段ボール箱を開く。
「他の棚にもあるかもしれないけど、とりあえずここにあるだけで600本くらいはありそうだ」
細野のその答えに、行田は包装の中身を覗き込み、腕組みをした。
「ジョイント部材を見ると、トラスは無理だ。ラーメンで行くしかない」
「ラーメン?
なんでまたラーメン?」
「ちっ」
岡部の問いに、今度は行田は舌打ちで応える。
「中国語の拉麺じゃあねぇよ。ドイツ語のRahmenで『額縁』って意味だ。三角を組み合わせて積み上げるトラスの方が、部材強度に頼って四角を積み上げるラーメンより強い。結果として筋交いが入るようなもんなんだから、当然のことだ。だけど、避難所のパーテーションじゃそもそも荷重が掛からねぇ。強度は不要だから、細い材の直交だけで十分なんだろう」
「物理部ってのは、そんなのもやるのか?」
そう聞いたのは岡部だ。
「これにアーチとメーソンリーの石積みを足しゃ、大抵の構造物の構造は理解できる。壁構造なんてのは見たまんまで理解も要らんしな。
で、割り箸で耐震性のあるタワーを作るとか、同じように橋を作って重さを乗せていくとか、遊びとして純粋に楽しいじゃんか」
「なんだ、原始的だな。もっとこう、ロボットとかハイテクやっているんだと思っていた」
と、細野。これはもう完全に煽っている口調だ。
「馬鹿こけ(バカを言うな、の方言)。
ロボット組むなら、素材強度と構造からの強度、両方理解していなきゃ作れない。それができてからの動力源と制御プログラムだ。脆いもの作って自己満足しても仕方ない」
「おおーっ!」
必要以上に大げさに反応する岡部と細野である。
「じゃ、どうする?」
しゃがみこんで3人で額を寄せ合って相談しているところに、声が掛けられた。
ボランティア部の喜多と軽音部の上尾珠花がやってきて、咎めるような目つきで見下ろしてきたのだ。
「あのさ、そういうのは公開でやってくれないかな。でないと、誰も協力できないよ」
そう言われて、3人はあからさまに狼狽した。言われて初めて気がついたのだ。
「いや、ほら、ここに鉄パイプがあるから、これで蒼貂熊と戦えないかなって。コレ、組み立てられはするけど、強度がないんだ」
行田の口調が言い訳がましくなるのは仕方ない。3人きりで自分たちの世界にこもってしまった自覚はあるのだ。
「おーい、みんなー。
鉄パイプで蒼貂熊と戦うにはどうしたらいいかなー!」
振り返って叫ぶ上尾の口調は、完全にステージから観客に呼びかけるそれだった。
第123話 閑話休題、先行隊3
もう、お知らせが不要なほどのベタw




