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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第120話 トラップ


 跳躍する蒼貂熊(アオクズリ)の後ろ姿をなすすべなく見送る僕の後ろから、やたらとのんびりとした声が聞こえてきた。

「こりゃあ、生き延びられそうだけど、そういうわけにもいかねぇよなぁ」

「正直が過ぎるぞ、吹上」

 坂本が吹上を(たしな)めている。


 一瞬遅れて、吹上の言ったことへの理解が僕の脳を覆い尽くす。

 そうだな。みんなが喰われている間にここで回れ右して逃げたら、僕たちだけは生き延びられそうだ。その理解は勇気を根こそぎ持っていきそうだったので、僕は自分の心の中を覗き込まないようにし、歯を食いしばって歩を進めた。

 だって、ここで逃げたら鴻巣に合わせる顔がない。それは1分後かもしれないし、数十年後かもしれないけれけど。隣の宮原だって、前に向かって歩を進め続けている。逃げるわけにはいかないよなぁ。


 シャッターはのろのろと閉まり続けている。

 3年生たちは、今さら蜘蛛の子を散らすように逃走に移った。だけど、もう手遅れだ。次の跳躍で蒼貂熊は地域防災センターの建物に入り込む。

 一体全体、なにを考えていたんだ、岡部、行田、細野?

 1年生を庇って逃がすために、3年生を囮にしたのだろうとは思うけど、コレじゃ間違いなく何人も喰われる。なんか考えていたにしても、タイミングが悪すぎるじゃないか。まさか、「3年生を差し出して、1年生を救うためだった」とか言うんじゃないだろうな?

 それなら、よっぽど籠城策の方が良かった。


 蒼貂熊が跳んだ。

 3年生たちは間に合わないだろうに、それでも散り散りに逃げ出していく。

 蒼貂熊はシャッターの中に飛び込み、凄まじい音を立てた。なにが起きたのか、僕の脳は解釈できていない。蒼貂熊はどうなったんだ?


 蒼貂熊はものすごい咆哮をあげた。耳が痛い。というか、身体中の産毛が一斉にびりびりと揺れるほどだ。

 近づいて、ようやく僕は理解した。


 地域防災センターは、倉庫みたいな作りだ。だから、トラックに荷物を積みやすいように、床が高くなっている。だから、低い位置にいる僕たちからはよく見えなかったんだ。

 とにかく、そこへ蒼貂熊は跳び込んだ。

 そして、その床にはいろいろなものが転がっていた。台車の取っ手のないの、乾電池、缶詰とか。つまりここにあるものはすべて、防災に必要なものでありながら、()()()()()だったんだ。


 シャッターが上から閉まる中、蒼貂熊は低く跳ばざるをえなかった。つまり、極めて浅い放物線を描いたということだ。だから、着地は落下の衝撃を殺すより、前に進む力を殺さねばならないということだ。言うなれば、高跳びと幅跳びの差だな。

 で、幅跳びに跳んだ着地地点が転がるもので満たされていたら……。

 自らの体重のせいで、決して止まれない。コンクリの床を速度を殺せないままに滑り、その結果として、その先に組まれた槍衾(やりぶすま)に全身を貫かれたんだ。

 この作戦、考えたのは行田に違いない。見事な「物理」ってやつだ。


 駆け寄る僕たちは、それでもまだ甘かったと痛感せざるを得ない。

 なぜなら、複数の鉄パイプに貫かれながらも蒼貂熊は咆哮をあげて、全身をオレンジ色の血で染めながらも立ち上がってきたんだ。


 坂本と吹上が槍を投げる。だけど、それは速度の違う2本だったのに、意味を持たなかった。理由は簡単なことだ。刺さらなかったんだ。

 僕も弓を引き絞る。

 僕の横で、宮原も。

 一瞬だけだけと、目が合った。

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