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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第118話 夜に走る


 廊下は蒼貂熊に待ち伏せされていたら逃げ場がない。

 だけど、こっち側なら野外で広がりがある。こちらが1人きりで蒼貂熊が複数だったら絶対避けるべき選択だけど、今回は逆だ。蒼貂熊が1頭きりでこちらの人数がいるなら、分散の幅が広がる分だけ誰かが生き延びられる可能性が高いはずだ。


 僕は弓の弦に矢をつがえ、身体に振動を与えないように小走りにそっと走る。これは怪我を庇ってじゃない。できるだけ音を立てたくないのと、弦につがえた矢にストレス与えたくなかったんだ。

 僕の後ろには宮原。その後ろには坂本。

 そして、北本を挟んで吹上、佐野、奥の順番だ。


 外に出てみれば、かなり風が強い。

 月が明るく、星までもそれに負けじと明るい。みんなの顔、そしてその表情までが(おぼろ)に見えるほどだ。

 無言で北本が僕を追い抜いて走り出した。石鹸水の入った重いガラス瓶を肩からぶら下げている。さっき僕は、地域防災センターまで北本が走りきれるかが不安だったので、重いガラス瓶についてはなにも言わなかったのに、だ。

 その両脇を、弓を持った僕と宮原が追いついて固めた。その後ろは、両肩に槍を担ぐ坂本。その坂本を囲むようにテニスラケットとボールを持った佐野、槍を持つ吹上、ボールを両手に持った奥。

 1分も掛からず、僕たちは校門を走り出ていた。


 校外に出ると、たくさんの民家がある。ピンポン鳴らして助けをを求めたらどうなるだろう?

 たぶん、その家の住人が相当のお人好しだとしても、ドアは開けてはくれないだろう。警察とかも来てくれない中で、誰だって自分が可愛いんだ。そこを非難をする気はまったくない。それに、ドアを開けてくれたら開けてくれたで、まるで無差別テロみたいにその家の住人を蒼貂熊との戦いに巻き込むことになってしまう。

 で、その巻き込んでしまう相手は、お母さんと赤ちゃん2人きりの母子家庭かもしれないし、80歳過ぎの老夫婦かもしれない。そして、僕たちのニオイがその家に入って行っていたら、蒼貂熊は絶対追ってくるし、一般民家の強度と蒼貂熊の力の強さを比べたらどう考えても蒼貂熊の勝ちだもんな。そう考えると、とてもじゃないけど助けを求める気にはならなかった。


 僕たちは走る。

 よくはわからないけれど、心の中に今まで感じたことのないずっしりとした充実感

を抱えて。ここまで、生きているって感じたのは初めてだ。

 そろそろ、篭原先生は武藤先生のところまで行けただろうか?


「蒼貂熊は見えない?」

「……全然」

 宮原と佐野の会話が聞こえてくる。見えなければ見えないで不安なんだ。

 風が強いから僕たちのニオイが吹き飛ばされて、校外に走り出したのを蒼貂熊に気が付かれなかったのかもしれない。そうなると、今ごろ篭原先生が喰われているってことになりかねない。

 絶対に考えたくないけれど、コレ、否定はできない可能性だ。だけど、今は篭原先生の無事を祈ることしかできない。ああ、僕の思考、ないないばっかだな。


 僕たちは走る。

 街灯に照らされた、夜の住宅街を。

 そして、初めて見た。コンビニエンス・ストアがその窓にシャッターを下ろして営業していないのを。当然のことだけど、その駐車場には1台の車も停まっていない。なのに、いつもの猫の集会もない。ただただ、町の中に生命が見えなくて、音とかもなくて生活感がない。まるで書き割りの中を走っているようだ。

 蒼貂熊の恐怖は、すべての人を支配しているってことだ。

 普段イキっている奴ら、こういうときこそ出てきてきて、蒼貂熊とやりあえばいいのに。勝てたら、「マジ、英雄」って言われるのにね。


 僕たちは走る。

 一緒に走っている仲間たちの息遣いと共に。

 地域防災センターまでもう少し。そこで僕は異変に気がついていた。地域防災センターの方角が、無茶苦茶明るいことに。

 目的地が明るいのはいいことではあるんだけど、この明るさは異常だ。悩みながらも、足を止めるわけにはいかず、僕たちは走り続けた。

第119話 蒼貂熊の跳躍

に続きます。

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