第114話 リスクもリターンも私たちが負う
北本の言葉に、誰もなにも言えなかった。そう、今のところは篭原先生でさえも。
誰もなにも言わなかったので、北本は言葉を続けた。
「リスクはありますよ。そりゃあ。
でも、リスクもリターンも私たちが負うんです。助けが来れば、リスクだけが消えます。でも、じっと動かないで助けを待っていたら、リスクは減りますがリターンはそれ以上に減る可能性があります。そして、助けが来るかどうかは、私たちにはどうにもできない現実です。
でも、リスクもリターンも私たちが負うのなら、私たちがどうにかできる範囲でその2つを負いたいです。私は、助けに来てくれなかった誰かを恨みながらなにもしないで死ぬよりは、自分の判断で戦って死ぬ方がいいです」
……うん、そうだな。
僕たちはまだ戦える。
「僕は北本に賛成だ。
鴻巣は失ったけど、それはある意味で刺し違えるという自殺に近いところがあった。足掻いて足掻いて、足掻きぬいた僕は生きている。もちろん、みんなの助けがあったからだけど。
つまりさ……、足掻くのをやめたら、一気にやられるかもしれない」
僕の言葉に、今度は坂本が言う。
「歴史の授業のときに猿田先生が、負け戦の被害は組織だった抵抗が失われた瞬間から拡大するって、でかい声で言っていたよな。俺はソレ、本当に正しいことだと思っている。だから、北本と並榎の判断に賛成だ。
それに今の話の前提は、蒼貂熊が俺たちを見張っていて、地域防災センターで襲ってくるってことだよな。ということは、俺たちが閉じこもって地域防災センターへの移動をしなかったら、ここが襲われることになるんじゃないか。そうしたら保健室にはバリケードもなにもない。全員が喰われて終わるだけだ。今俺たちは蒼貂熊に生かされている。なら、そこにつけ込むには蒼貂熊の期待を裏切っちゃだめだ」
一気に全員の顔が引き締まった。
もう、迷っている者は誰もいない。
「それでも、1つ約束してくれないかな?」
「なんですか、篭原先生」
僕の質問に、篭原先生は話しだした。
「みんなの言いたいことはわかる。わかるけど、それでも助けが来ればすべてが解決するのは間違いないし、私としては、これ以上生徒を死地に送りたくない。
これから、武藤先生に連絡を取るし、合唱部の部長のメアドも聞く。だけど、その過程で1つでも問題があったら、作戦を待ちに変える。その約束をしてくれないなら、スマホは貸せない」
……なんだよ、ソレ?
最強の実力行使による反対じゃんか。やっぱり、自分の意見をこの人は微塵も引っ込めていないんだ。
僕はなにも言えなくて、ただ口をぱくぱくさせた。言いたいことはいくらでもあったけど、言葉にならなかったんだ。
「いいですよ、先生。約束します」
これは、宮原の声だ。
いいのか、それで。なんで、そんな……。
「戦いには運もありますからね。これは運試しです」
……宮原、オマエ、嘘言っているだろ?
僕は、ずっと宮原を見てきた。だから、そのくらいのことはわかるんだからな。なんか、考えているだろ?
篭原先生は疑わしそうに宮原を見た。
「並榎、それでいいね?」
「あ、え、……ああ」
いきなり振られた僕は、あいまいに、だけど最後はその圧に負けて頷かされていた。相手が宮原でなかったら、絶対ありえなかったことだ。
「じゃあ、篭原先生、お願いします」
宮原の声に、篭原先生は渋々頷いた。
第115話 宮原 雅依
に続きます。




