第111話 総力戦
再び、暗闇の中から宮原の声がした。
「並榎。裏を返して考えてよ。
さっき、消防署と連絡が取れたからこそ救急車が来た。ということは、地域防災センターの3年生の誰かとも連絡が取れるんじゃないかな。まだ電話回線の輻輳は続いているから1回では無理かもだけど、朝まで繰り返しトライすれば、絶対つながる。さすがにもう通信量は減っていくんだろうし、復旧も進むはずだから、少なくともラインかメールは行けるはず。
そして、蒼貂熊は地域防災センターに移動するまで襲ってこないんだよね?
とすれば……」
宮原の考えていることが、僕には手に取るようにわかった。これって、暗闇の効果かもしれない。なんかコミュニケーションを取るのに、近くて余計なものが削ぎ落とされた感じがするんだ。
「蒼貂熊が僕たちを地域防災センターまで襲ってこないのをいいことに、逆にそれを利用して引き付けてからの総力戦をやろうってか?」
「そう、そのとおり」
宮原の返答に迷いはなかった。
「一晩の準備期間があれば、向こうでなんかの罠を作ってもらえるかもしれない。ここよりずっといろいろな資材があるんだろうから、期待していいよね。しかも、向こうには行田、細野、岡部がいる。労力も豊富にある。きっと、えげつない罠を実現してくれるよ。
そうなれば、私たちのミッションは、無事に地域防災センターにたどり着き、殿部隊の誰も蒼貂熊には渡さないってことだけになる。もちろん、武装して戦わなきゃならない局面もあるだろうけど、それは枝葉のことよ。ミッションの本質はシンプルで、誰も欠けずにたどり着くというそれだけだよ」
なるほど。言いたいことはわかるし、いい案だとも思う。だけど……。
「……本当にそれでいいのかな?
殿部隊が蒼貂熊を連れて帰るようなことをしたら、それはもう論外な失敗なんじゃないかな?」
僕の言葉に、宮原がため息を吐いた……、ような音がした。で、立て続けにもう2つ。ため息だけじゃ、誰のものか聞き分けられないな。一体全体、なんだって言うんだよ?
俺の言っていることは、そんなにおかしいかな?
でも、少なくとも3人は僕の考えを間違っていると判断しているようだし、それがため息ってことは、僕に対しては怒りより呆れを感じているのかもしれない。
だけど、宮原の声は、そんなことは感じさせないほど真摯に響いた。
「あのさ、並榎くん。
並榎くんは独りでいろいろ抱え込み過ぎだよ。私たちが、地域防災センターに逃げ込み済の全員を守らなきゃって考える必要、本当にある?
私たちは、私たち以外の全員を逃がすことに成功した。これでもう殿部隊の働きとしては十分じゃん。
戦国時代に例えるならさ……。例えば金ヶ崎の退き口だって、無事撤退した織田信長を殿部隊の秀吉が引き続き守るなんてありえなかった。戻ったあとは、ご苦労さんってご褒美もらっているじゃん。
今は、安全を確保したみんなが私たちを守る番って考えもアリだと思うよ」
……そっか。
言われて初めて気がついた。僕の思考、完全に硬直化していたかもしれない。ずっと最前線にいたからか、最後まで最前線で戦い続けるものだと思い込んでいた。
死ぬか大きな負傷しないと抜けられないって。それまで戦い続けるって。とは言え、骨折は大きな負傷だよな。
第112話 首の皮一枚
に続きます。




