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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
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第109話 失敗から学ぶ?


蒼貂熊(アオクズリ)が逃げた真意……、か。

 さっき佐野は『逃げたと言うより、自分のフィールドじゃないって気がついたんだろうな』って言ってたね」

 暗い中、北本のひそひそ声に、佐野が答える。

「そこに、並榎の言う『今までのどの個体より、一番強く明らかに頭が良い』って条件も足さないと……。そうすると、蒼貂熊が逃げる理由として気がついたことが、『自分のフィールドじゃない』ってこととは全然違ってくるかもしれない」

 これには、僕たち再び黙り込んだ。


 今までだって、蒼貂熊の考え読むのは簡単じゃなかった。

 ケダモノの考えを読むというより、同じ人間の考えを推理するような困難さをいつも感じていた。それでもなんとかなったのは、生物部の岡部、物理部の行田、化学部の細野、そして帰宅部の井野。そして生徒会長の鴻巣。ブレーンとしての彼らがいたからだ。彼らに頼れなくなって、その凄さに僕は今さらながらに気がついていた。


 でも、それでも……。

 僕1人が喰われている間に、殿(しんがり)部隊の全員を逃すことはできる。蒼貂熊を最後の1頭まで減らせたということはそういうことだ。

 そう思ったら、少しだけ気が楽になった。


「明朝、明るくなり始めたら、様子を窺いながら全員で地域防災センターまで走るってのはどうだろう?

 もちろん武装して、だ。槍も直接は効かなかったにせよ、蒼貂熊が逃げた一因だろうから牽制にはなりそうだし、全力疾走なら10分も掛からない。運が良ければ、蒼貂熊の姿を見ずに逃げきれそうだ」

 僕の言葉に返答は返ってこない。保健室の中は真っ暗で、その返答がないことが肯定的なものなのか否定的なものなのかもわからない。


「並榎。

 オマエ、赤羽の失敗から学んでないのか?」

「どういうことだ?」

 僕は、坂本の質問に質問で返した。


「走っていて遅れるヤツ、それはもうわかっている。

 運動部でない女子の北本か、負傷している並榎のどちらかだ。蒼貂熊はそのどちらかを殺さず咥えて、地域防災センターまで追いかけてくるだろうよ。

 俺たちは、逃げたら逃げたで悪夢を見せられる。人質を喰い荒らすのを見せられるか、人質を救おうとした奴が喰われるのを見るか、だ。動揺したらいいように蒼貂熊にやられちまうのに、こうなると動揺どころか仲間割れまでいっちまう。

 もう、全員無事か全員死ぬかぐらいの作戦でないと、どうにもならないんだよ。並榎の作戦は荒すぎて話にならない」

 ……なるほど。

 そのとおり過ぎて、一言もない。


 僕が甘かった。「僕1人が喰われている間に」なんての、そもそも通用しないんだ。

 でも、そこで思考がなにかの尻尾を掴まえた。僕は、必死でその尻尾をたどる。


「僕1人が喰われている間に」って、「僕が喰われなかったら……」。そして、赤羽の失敗。

 蒼貂熊が僕を人質にとって、みんなを追って地域防災センターまで来るのはなぜだ?

 そして、逃げる前とのフィールドの違い……。

 そうだ、蒼貂熊の行動原理は喰っては吐き、喰っては吐きと存分に食欲を満たすためだ。

 うん、そうなんだよ。蒼貂熊の欲望は、まずは食欲にある。


 となると……。

 蒼貂熊にとっての理想は、地域防災センターに入り込み、思うがままに1年生と3年生を喰らうことだ。僕たちのあとをつけて……。だって、ここにはもう生徒たちはいない。蒼貂熊にとって無理して襲うフィールドではなくなっているんだ。

第110話 暗闇のコミュニケーション

に続きます。

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