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大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校

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第102話 0%と1%、どちらを選択するかと


 僕は30秒ぐらい放水して、蒼貂熊(アオクズリ)の前進が止まっているのに気がついた。アナコンダのような腕は振り回し続けているけど、それだけだ。下半身は通り抜けようと藻掻くこともしていない。

 これ、たまたまなのか、放水に戸惑っているだけなのか、本当に水が苦手なのか、それらが組み合わされた結果なのだろうか?

 悩むより前にふと気がついて、僕はハンドソープを手に取った。放水は片手でもできる。もう片方の手と口でハンドソープのキャップをむしり取り、放水の水流に垂らした。


 大部分のハンドソープは激しい水流にはじかれちゃったけど、それでも蒼貂熊の体毛が水をはじかなくなり、身体が濡れていく。ざまをみろ、だ。マジで、北本はいいところに気がついたよな。

 おまけに、ハンドソープは口に入っても絶対に不味いし、鼻の穴の中なら染みて痛みを与えているはずだ。石鹸水が鼻に入ると、とても痛いからな。


 蒼貂熊、怒りの声を上げようとして、僕がその口と鼻にさらに容赦なく水を浴びせたから、ものすごい噴気とともに思い切り水を吐き出した。人間だったら、「むせる」とか「くしゃみ」とかの反応なんだろう。

 次には、空気を吸おうとするのはわかっていたから、僕はさらに狙いを絞って、鼻と口に水を浴びせ続けた。蒼貂熊が動きが取れない間だけのボーナスタイムだ。無駄にはできない。


 そういえば中学生のころ、味覚と嗅覚は密接に関係しているって理科の先生が言っていたな。

 蒼貂熊の鼻と口が、人間のように繋がっているかはわからない。でも僕たちまで含めて多種多様になんでも喰うんだから、味覚はあるはずだ。となると、鼻と口は繋がっている前提でいいと思う。だから、どっちにもまんべんなく水を放ってやる。でないと、息継ぎしちゃうからな。

 蒼貂熊の巨体が今までは恐ろしかったけど、こうなると的が大きくて助かる。


 トイレの床の排水口はハンドソープで泡立ち、あまりの水量に飲み込みきれなくて水たまりがどんどん大きく広がっていく。廊下に水が流れ出したって知るもんか。もっと浴びせてやる。

 トイレの中の気温が下がってきた気がするのは、この水量で気化熱を奪われているからだろうか。

 ものすごく寒い。

 身体の芯、それこそ骨の髄までが冷えてきたみたいだ。半袖の季節だっていうのに、氷が張るんじゃないだろうかってくらいだ。信じられない。

 それでも僕は、寒さに耐えて水を放ち続ける。


 蒼貂熊の振り回し続けていた腕が、ついにその顔の前で止まった。

 余力がなくなったんだ。でも、これは僕にとっては良い状況とは言えない。だって、その腕の陰で息ができてしまうからだ。いくらホースの位置を変えても、その腕で完全に顔を覆う形にされてしまえば水は届かない。


 ここで僕には2つの選択肢がある。

 このまま、蒼貂熊の腕の上から水をかけ続けること。

 もう1つが、近寄って腕の隙間から顔に直接水をかけること。


 1番目は……、ダメだな。これで蒼貂熊が呼吸できてしまったら、このままの体勢でじりじりとここまで入られる。したら、喰われて終わりだ。

 2番目は……、これはもっとダメだな。蒼貂熊の間合いにこちらから入ることになる。リスクがあまりに大きい。だけど、どれほど可能性は薄くても、攻撃できるとしたらこれしかない。

 ……またか。

 0%と1%を比べて、どちらを選択するかという賭け。なんでこう、どちらも分が悪いんだろう?

第103話 たとえドブの中でも、前のめりに死にたい

に続きます。

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