表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大食の侵襲 -異世界からの肉食獣-  作者: 林海
第一章 相馬県立鷹ケ楸高校
10/278

第10話 吹奏楽部


 僕は半ば呆然としていた。実際に眼の前で起きたことでも、自分の矢が蒼貂熊(アオクズリ)に咥えて止められたことが信じられない。

 いつか、三十三間堂で通し矢にチャレンジしたいと思っていた。だから僕は、矢が遠くに飛ぶよう強い弓を使っていて、その初速は速い。前に一度、野球部から機械を借りてきて計測したけど時速200kmはある。これって、秒速60mを超えるんだ。それを咥え取るなんて、反射神経も人類のものとは桁が違うってことだ。


 だけど、僕の2本目の矢と同時に、長尾もバリケードに潜り込み、そのままの勢いで蒼貂熊の腹を居合刀で突いていた。

 間藤と中島も2つ目の矢を吹いている。さすがは吹奏楽部、演奏と同じでタイミングを失しないな。


 と思った次の瞬間、バリケードが爆発した。

 蒼貂熊が筋肉の塊の触手のような右腕の一振りで、バリケードの上半分を吹き飛ばしたんだ。


 ……こんなチート、ありかよ。

 僕たちはどう頑張っても、この机を同時に2つまでしか運べない。なのに、腕の一振りだけで20台以上の机を軽く吹き飛ばすだなんて。

 腰矢で体勢を低くしていた僕たち、かがんで吹き矢のアルミ管を咥えていた間藤と中島、バリケードの低い位置に潜り込んでいた長尾、運良くまだ誰も怪我はせずに済んでいる。だけど、僕たちの姿は蒼貂熊から丸見えになった。それに、長尾の持っていた居合刀は、物打ちの辺りから折れてしまっていた。


 からんっと音がして、蒼貂熊の腹に刺さっていた切っ先が落ちる。その先には微かにオレンジ色の血が見える。岡部が柔らかそうと言っていた腹部ですら、この固さなんだな。せめて、この刀が鋼だったら、切っ先は蒼貂熊の腹に潜っていたかもしれないのに……。

 長尾の表情は、無念というものを描いて顔に貼り付けたようだった。


 もう1回腕を振るわれたらバリケードは完全に吹き飛んで、蒼貂熊の昼食会が始まる。メニューは言うまでもなく僕たちだ。

 だけど、まだ終わらない。終わらせられない。僕は3本目の矢をつがえようとしたけど、恐怖と焦りで指先がぶるぶると震えてどうにもならない。苛立った僕は、人差し指を思い切り噛んだ。血が噴き出したけど、一時的に震えが収まって矢をつがえることができた。


 一気に弓を引き絞り、同じく弓を引き絞っていた宮原と一瞬だけ視線を交わし、僕は矢を放った。蒼貂熊の体勢はまだ浮いている。狙いはかろうじて見えている喉だ。蒼貂熊に僕たちと同じような喉があるかは知らないけど、頭と胴体の接続部分には重要な管がたくさん通っているはずだ。動く場所の内側だから、外骨格的な装甲もない。しかも、自分の顎が邪魔して、飛んでくる矢は見づらいはず。

 とっさの間に、僕はそこまで考えていた。時間の流れがとても遅いと感じていたし、たぶん、ゾーンってヤツに入っていたんだ。


 焦りで十分に引ききれなかった僕の矢と、あわてなかった宮原の矢は見事な並行線を描いた。宮原も僕と同じことを考えていたに違いない。僕は祈っていた。なんとかこの矢に通って欲しい、と。

 だけど、その矢も1本は咥えられ、1本は掴み取られていた。どうやったら、この爪の長い手で矢を掴めるんだろう?

 もう、弓と矢は学習されてしまったのか?

 僕たちにできたのは、この矢でバリケードの下半分が吹き飛ばされるのを数瞬遅らせることだけだった。


 だけど、この間に間藤と中島がさらに吹き矢を吹いていた。

第11話 化学部


に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ