096 バカ
二頭のミノタウロスに気付かれないよう、そろりそろりと近づいてゆく。
「奴らは魔力も少なく目も耳も悪い。だが何よりも厄介なのはその身体能力だ。あの大腕の一撃を喰らったら死ぬと思え」
こ、怖がらせないでぇ。
今にもちびりそうな俺は、少し早めに支援魔法を発動した。
全員の両腕、両脚に魔力がみなぎる。
ミノタウロスとの距離がもう目と鼻の先というところ。
「フンッ……! フンッ……!」
ひえぇ……鼻息荒ぁ……。
どうやら二頭とも元気いっぱいのようである。
ツユが後続の肩を叩く。
先頭準備の合図だ。
各々が魔力を練る。
俺も左手に持つ杖で自らのマジックボールを生成しながら、右手でリメアのマジックボールに属性を付与した。
ツユがそれを確認すると、勢いよく立ち上がる。
「はぁぁぁ!!」
「フン……フッ!?」
両手に持っていたアイテムが豪速球で投げられ、二頭の顔面に命中した。
「今だ!!!」
皆が一斉にスキルを発動する。
リメアと俺のマジックボールは左の一頭に命中。
ロイの速度低下デバフが右の一体にかけられ、動きの鈍くなった所をオネエさんとカゲトがそれぞれ滅殺闘拳、スラッシュで攻撃。
「フゴォォォ!!!」
「フギャァァァ!!」
二頭のミノタウロスは、なす術なく消滅した。
「お主ら良くやった! 完璧な連携だったぞ!」
ツユが嬉々として言う。
ロイが懐中電灯の明かりを付けた。
「当たり前だろ? 俺達三人を甘くみて貰っちゃあ困るね」
いやいや、左のミノタウロス倒したのリメアと俺だし。
てか三人って言っても、今回はメロエ師匠何もしてないじゃあないか。
てもまぁ、そんなことより……。
「まさか本当に上手くいくとは」
ほらさ、流れ的に大体俺の魔法の威力が弱すぎて、一頭残っちゃう展開予想するじゃない?
「お主らが成長している証拠だ。良い調子だぞ」
ツユに褒められ、俺、リメア、カゲトは顔を見合わせて、恥ずかしいような誇らしいような笑みを交わした。
特訓の成果が実戦で証明されたわけだ。
嬉しいかな。努力の結果である。
「私たちのおかげねぇ♡」
「俺達に感謝するんだな! 鍛えてやったんだから」
まぁ確かに、メロエ師匠にはいっぱいお世話になったしな。
「ありがとうございました。僕がまさかこんなに戦えるようになるなんて。嬉しいです」
「ふふ〜ん、もっと褒めても良いのヨォ」
「アンタ、ミツルまで懐柔させたわけ? 私気に入らないんだけど」
リメアがメロエ師匠に突っかかっていると、その肩をロイがトントンと叩いた。
「そんなことより、俺に感謝は?」
「ロイ君ありがとう、大好きー」
リメアは適当に返事すると、ロイに抱きついた。
「ふごっ……ち、ちょっ、やめっ!」
クソッ! なに顔赤らめてんだ! 羨ま……じゃあなくて、可愛いやつめ。
「ロイ、お前って可愛い反応見せるよなぁ」
「だ、黙れ筋肉ナイト! ……というか、いつまでくっついてんだ、離れろ!」
「はあい」
リメアが離れる。
「ねぇリメア、俺にもギュッてしてよ」
「は? 何言ってんの? キモ」
ですよねー……やば、涙出そう。
「涙拭けよ、ミツル」
「カゲトぉ」
「よーしよし、辛かったなぁ」
俺はリメアの代わりにカゲトに抱きつく。
「やっぱりバカねぇうちの男どもは」
「リメア、お主もバカだぞ。皆そんな事やってないで、どんどん先に進もう」
「そうよ。ツユちゃんこう見えて、先へ行きたくてうずうずしてるんだから」
オネエさんがツユの肩に手を当てた。
「ね?」
「う、うるさい。皆、行くぞ!」
照れ隠しのようにそそくさと進むツユの後を、皆で追うのだった。
「というかツユちゃん、今私の事バカって言った!? ねぇ、ねぇ!!」




