094 ちびりそう
天界への定期報告を済ませたリメアと合流した俺達は、いつものようにギルドへと向かった。
今日はオネエさん達とクエストに赴く最後の日──。
もともと俺達は、尽きた資金の調達のためにクエストを受注していた。
しかし、この国に来てから約一ヶ月。
懐も潤ってきたので、ようやく本来の目的である、転移事件の調査に本格的に乗り込むことに決めたのだ。
もちろんオネエさん一行にもこの事は伝えてある。
「今日で最後だと思うと、なんだか寂しくなるなぁ」
俺は誰に言うでもなく呟く。
「そうだねぇ」
「だなぁ」
リメアもカゲトも、俺に同調して相槌を打つ。
「今生の別と言うわけでも無かろうに、大袈裟だなお主らは」
大袈裟か? ツユは俺達と会う前から一人でダンジョン巡りの旅してたから、慣れてるだけだと思う。
***
俺達四人はギルドでオネエさん一行と合流すると、予定していたクエストに出発した。
クエストの内容は、ディテク最北に聳える山脈に開いた洞穴タイプのダンジョン。
その探索だ。
最近、ダンジョン内の魔物の構成が変化しつつあるので、探索を依頼したいという事らしい。
少し歩くと、やがてその入口が見えてくる。
「おぉ……! 久々のダンジョンだ……! 胸が躍るな……!!」
いやいや、ダンジョンのどこに胸躍る要素あるよ。
暗いし、先見えないし。
何が出てくるか分からないから、ワクワクするなんてもっての外だ。
「なんかあいつ、浮かれてね? 大丈夫か?」
ロイがごもっともな疑問を俺に問いかけてくる。
「大丈夫だよ……多分」
「多分かよ」
「あのツユちゃんよ? もうちょっと信用してあげても良いんじゃない?」
オネエさんがロイに言う。
「確かにそうだな、ジェーン。こいつらのパーティーの中では一番まともだったな、ツユは」
あれ? もしかしてまた喧嘩売ってる?
「お姉さん、でしょ?」
「俺もツユと同じ常識人枠だからね?」
「俺もだぜ」
俺、カゲト、オネエさんからそれぞれツッコミを喰らうが。
「はいはいわかったよ」
って、絶対反省してないわこれ。
「でもでもぉ、あんなに楽しそうなツユちゃん、なかなか珍しいんじゃなあい?」
確かに、メロエ師匠の言う通りかも。
「皆、着いたぞ!」
話しながら歩いていると、やがてダンジョン入口の正面に到着した。
「ふむ……見た感じ、入口付近に魔物の気配はしないな……」
してたら怖いよ。
まじで俺ちびりそう。
実はこのダンジョン、元々はアンデッド系の魔物が蔓延る巣窟だったらしい。
それがここ数週間の間に、二足歩行する動物型系統の魔物に変化しつつあるとか……。
「はぁ……」
俺は深く溜息を吐いた。
アンデッドが居なくなって、代わりに二足歩行の動物が出現しただぁ? 化け物には変わりないじゃないか。
お化け屋敷に喩えれば、コンセプトが変わっただけである。
「空間把握」
俺の畏怖などつゆ知らず。ツユが魔法を唱えた。
「しばらく接敵の心配は無さそうだな」
言うと、入口の脇に座り込み久々の錬金術スキルで調合を始める。
「やっぱり探検家が居ると頼もしいわね」
「今回はぁ、いーっぱい頼っちゃおうかなぁ♡」
あぁまずい! あんまりツユを調子に乗らせると……!
「存分に頼ってくれて良いぞ! 何せ私は、フェンディ冒険者養成学校ダンジョン攻略科を二位の成績で──」
「つ、ツユ! それよりも早く調合を!」
「そ、そうか? だがしかし、フェンディの話は──」
「俺、ツユの調合してる姿、前からかっこいいなぁって思ってたんだよね……!」
「そうなのか? て、照れるな。ほれ、見ておれ? 今回は魔物に対する牽制用の──」
言いながら、止まっている手を再び動かし、調合を再開するツユ。
ふぅ、何とか話を逸らす事ができたようだ。
母校の事となると謎に長いからな。
気をつけないと。
「──ほれ、できたぞ」
どうやら調合が終わったようだ。
ツユはアイテムをバッグにしまうと、懐中電灯を取り出す。
「お主が持っていろ」
そしてそれを、オネエさんに手渡した。
「ありがとね、でも実は私、暗視のスキルも使えるのよ。だからこれはロイちゃんに」
「そうか」
懐中電灯がロイの手に渡った。
「私ぃ、ロイ君の後ろに着いていくねぇ」
「わかった」
どうやら二人で使うようだ。
で。
「あ、あのぅ、ツユさん? 俺らのぶんは……?」
俺、リメア、カゲトのぶんがない。
「あいにくあれは一つしかない。だからお主らは私から離れるなよ?」
無責任!!
「ミツル、心配し過ぎだよ。前のダンジョンでも武器無しで何とかなったし、明かりがなくたって大丈夫だって」
この女神様は本当に危機感がないらしい。
「ミツル、心配性なところあるもんな。大丈夫だ。俺、結構夜目が利く方だから頼ってくれていいぜ」
カゲトもか。
「はぁ」
俺は再び溜息を吐く。
「では、行くぞ!」
「「「「「「おおーー!!」」」」」」
「お、おおー……」
俺は一抹の不安を覚えながらも、ダンジョンへと足を踏み入れたのだった。




