093 天界への定期報告④
探偵への依頼を済ませた次の日、早朝。
私はいつものように、天界報告のためオールテレポートを発動した。
自身の足元に出現した魔法陣が、身体を優しく包み込む。
──やがて視界がはっきりとして来た。
「おはよーう。お父さーん? いるー?」
…………返事が無い。
「どこ行ったのかな……ってまさか!?」
私は大急ぎで自室のドア前まで移動する。
そして何重にも仕掛けた南京錠を一つ一つ確認した。
「ふぅ……解錠の痕跡無し、と」
ホッと一安心……とも行かない。
全部解錠して部屋の中を物色した上で、全てを元に戻したのかもしれない。
…………うん、お父さんならやりかねない。
私は鍵を取り出して、一つ一つ丁寧に解錠していく。
そして最後の一つを解錠すると、恐る恐る自室に入った。
──特に変わった様子無し。
念の為、ベッドの下やら収納の奥底やら、隠しているあれやこれやを確認した。
「全部ある……」
今度こそ安心する。
どうやら私があの世界で生活している間、お父さんの侵入は無かったようだ。
南京錠の優秀さたるや、職人さんには感謝しなければ。
「あー、なんか疲れ……」
「リメアちゃぁん」
「イャァァァァァアアア!!!!」
突如耳元で囁かれた呼び声に、悲鳴を上げる。
「鍵を掛けるなんて酷いじゃないか」
「私の部屋に勝手に入る方がどう考えても悪いでしょ!! プライバシーの侵害!!」
「家族に隠し事だなんて……」
「嘘泣きするなーー!!! 早く行ってほら、部屋から出るよ!」
私はお父さんの背中を強引にプッシュし、部屋から出る。
「酷いじゃないか……お父さんは入っちゃダメだなんて……」
「本当に怒るよ!?」
「全く……」
全く……はこっちの台詞だ。
全く。
「ていうかお父さん、どこ行ってたの?」
突然現れたからびっくりしたよ。
「実はさっきまで会議があってな……」
「会議? それってこの間言ってた、上から流れてきた仕事に関して?」
「それがな、聞いてくれよリメア。前に言ったのとは違う、新しい仕事でな……」
お父さんはだらだらと愚痴を言い始める。
「……魂の循環に関する話なんだけどな…………それで要するに、天界のエネルギーが不足してるとか…………だから何か、解決法は無いかと…………そんなの俺に訊かれてもなぁ…………」
今までの話をまとめるに、要は世界同士での魂の循環、流れが遅くなっているらしい。
天界のエネルギーのほぼ全て──神聖術も含む──は、この魂の循環によって賄われている。
神々が下界を照臨する理由は、ここにある。
そのエネルギーの源たる魂の循環が滞り始めているということは、私達にとっては死活問題なわけだ。
だから平神様なお父さんにまでこの件がまわってくるのも頷ける。
「俺としては…………なんだが…………しかし…………」
にしても……。
な、長い……! いつになったら閉じるんだこの口は!
「…………と、言うわけなんだ。リメア、どう思う?」
「え、あ、あぁ、大変だね……」
しまった。途中から聞いてなかった。
「だろ? このあともまた会議があるとか……」
しかしまぁ、ついこの間までゲームしながらダラダラ過ごしてた私じゃ、多分耐えられないな。
お父さん、結構凄いのかも。
感謝しないとだね。
「…………で、何だっけか」
「定期報告でしょー?」
「ああ、そうだそうだ」
愚痴りすぎて本題忘れてどうする。
「それでどうだいリメア。任務の進捗は」
「順調だよー」
「さすが我が娘だ」
私はお父さんと親指を立てあう。
「あっ、そうそう。私昨日、ちょっと気になる事があってね……」
私は昨日の出来事を説明した。
探偵へ依頼をしたことと、美人騎士と……すれ違った時の事。
「いや、私の勘違いだと思うんだけどね?」
私の話を聞いて、唸りながら思考を巡らすお父さん。
「……だが、もしそれが本当だとすれば、そんな存在を確認できた事は大きな進歩だ」
「でもでも……」
「どちらにせよ、他に手掛かりも無いんだろう? その騎士、注意した方が良い」
「そうだね……」
正直、勘違いであって欲しい。
真実に近づいてゆくのが、怖かった。
だけど、知りたくもある。はっきりさせて、この心のモヤを晴らしたい。
「分かった。三人に頼んで、その人の事、一緒に調べてみる事にするよ」
「よし、その意気だ。俺も何か分かったら、次の日にはすぐに言う」
私とお父さんは、親指を立て合う。
そして、必ずこの一連の事件を突き止めると誓ったのだった。




