092 異彩な瞳に映るもの①
「…………オールテレポート」
白銀の髪の騎士は、静かに唱えた。
普通のテレポートよりも大きめの魔法陣が、優しく光り彼女を包む──。
***
──女騎士は歩みを進める。
やがて見えるは、幾つもの円柱形の水槽。
その前方に置かれた一つの機械が、ゴウゴウと騒々しい音を放っている。
「おやおや、これはこれは」
機械の前に立つ荒れた肌の醜い男は、振り返った。
「遅かったですねぇ」
「人目を避けるのに少し手間取った」
「それはお気の毒に」
男は女騎士と向き合う。
「で、どうなんですか? 貴方の計画とやらは」
「…………やはり、公王ライファルは白だった」
「そうですか。ではやはり『帝国領土分割統治政策』とやらは、自分の害になりそうな貴族を遠くへ追いやる目的であったと」
「……そうだ」
「グロードア帝国……。貴方の国、大丈夫なのですか?」
醜い男は、嘲笑を含んだ笑みを浮かべた。
女騎士は同情の一つも感じない男の言葉に怒りを覚える。
「…………私は貴様と雑談しにここへ来た訳ではない」
「それは残念です。私達、せっかく仲良くなれたと思ったのに」
「貴様と仲良くした覚えも無い」
女騎士は、水槽を指差した。
「どうだ」
「ええ、問題は無いですよ。しっかりと集まっています」
醜い男はニヤリと笑う。
「それにしても、貴方がここまで残虐な方だったとは……」
女騎士は素早く腰の剣を抜く。
そして、一瞬のうちに男の左目を貫いた。
「これは貴様の提案だ。私では無い」
「ひええ、怖い怖い」
男は剣身を両手で掴むと、それをゆっくりと引き抜く。
「やめて下さいよ。私、見ての通り右目はよく見えませんので。左目を潰されてしまっては……ねぇ」
大きな穴の空いていた箇所が、少しずつ修復されてゆく。
「化け物が……」
「化け物とは心外ですね。それは貴方も同じでしょう? 私も貴方も、一緒なんですよ」
女騎士は顔を歪めた。
「それに貴方、約束を忘れていたでは無いですか。せっかく神格化の機会を得たというのに」
「貴様もあの女も、私とはどうも馬が合わない」
「酷いですね。あくまで私達はあなたの目的の為の道具というわけですか」
「研究を理由に、死体漁りそれ自体を楽しんでいる貴様の方が、私はよっぽど理解できない」
「人聞きの悪い。その研究のお陰で、これが行えるのですよ? ほら」
醜い男は、機械の表面にあるメーターを指差した。
「魔力計を見てください。たくさん溜まっていますよぉ」
目玉が今にも溢れそうなくらい目を見開く。
女騎士も、魔力計と水槽を交互に眺めた。
水槽には、私が攫ってきた貴族が何十人も浮かんでいる。
「そろそろこの方達も限界ですね。次をお願いしたい」
「…………魔石はあとどのくらい必要だ」
「五個でしょうか」
あと数十人は必要……か。
水槽に浮かぶ貴族は全部で二十人。
内、十五人は黒。公表額の何倍もの給料を受け取り、懐は潤っていた。
しかし──
「…………」
女騎士は、チェストプレートの上に拳を置き、握り締める。
プレートの内部にしまった、一冊の手記。
騎士が貧民街で過ごしていた頃。
恩人の言葉が、記されている。
そこに書かれていた事を思い出す。
『不当な搾取に苦しむ民は、この手で必ず──』
「──救い出す」
「……何かおっしゃいましたか?」
「なんでもない。ではもう一度、隙を見て転移魔法を発動する」
「えぇ、えぇ」
醜き男は、不気味な笑みを浮かべた。
「……」
女騎士は顔を引きつらせる。
──水槽に浮かぶ残りの五人は、白だ。
正当な金で働く貴族だった。
この二十人の貴族もおそらく……いや、確実に全員殺されるだろう。魔力を吸い尽くされた果てに、殺される。
善と悪、白と黒。この男には関係無かった。
私が攫ってきた奴は、全員殺す。
それは私の目的では無い。けれども今ここで、あの女と対立する訳にはいかない。
飢えに苦しむ帝国民の為、貴族には善人も悪人も犠牲になってもらうしかない。
──必要な、犠牲だ。
女騎士は剣を鞘に納め、魔法を発動する準備をする。
「おや、もう行かれるのですか」
「あぁ」
「それは残念ですね。もっとお話ししたかったですよ」
「……私はそうは思わない」
「手厳しいですねぇ」
男は機械の電源を落とした。
「では次の空きを作る為に、この方達の魂も送っておきますね」
男が、魔法を発動する。
辺りに出現した魔法陣から、スケルトンやゾンビ、ゴーストなどのアンデッドが召喚された。
「それでは頑張って下さいね、シルル・ハクワイトさん。応援していますよ」
男の薄気味悪い猫撫で声を最後に、女騎士はその場を後にした。




