009 ほら、ミツルは床ね
防具屋に行くために階段を降りる。
その最中に、リメアがこんな事を訊いてきた。
「ミツルは確かバッファーだったよね。天界で見た時はテレポートしか覚えていなかったようだけど、何か支援魔法は覚えないの?」
そういえば俺の職業はバッファーだったな。
ゲームの知識そのままならば、支援魔法とかをかけて攻撃力アップとか防御力アップとか、そんな職業のはずだ。
職業というか、役割ってイメージな気もするけどね。
アタッカーとか、タンク的な。
でもまぁ、この世界では"バッファー"それ自体が職業なのだろう。
支援魔法を覚える、か。
でも……。
「俺この世界に来てから知り合いと言えば、受付の人と、薬草採集でお世話になったコンマさんくらいなんだよね。だから教わる人がいないっていうか……」
それを聞いたリメアは、右手を前に突き出すと。
「教わる必要ないよ、魔法って意外と感覚で簡単に出せるものだから」
なんて言い、右手の形を変えたりしながら唸る。
「あれ……?」
そして特に何が起こるでもなく、防具屋の前に到着した。
「……ほら、こんなふうに!」
ようやく魔法が成功したようだ。
リメアの手のひらには、小さな紫色の魔力の玉のようなものが浮いている。
「……簡単に?」
そう言ってジトーっと見つめてみると、リメアはダラダラと冷や汗をかきながら目を逸らす。
……うん、やっぱり魔法は難しそうだな。
素直に人に習った方が良さそうである。
防具屋の中に入ると、そこにはゴツい鎧からカジュアルな洋服、甲冑や着物のようなものまで置いてあった。
防具屋とあって、確かに鎧やら硬そうなものはいっぱいあるが、ただの服が防具と呼べるのだろうか。
「いらっしゃいませー!」
奥から店員の声が聞こえてくる。
「ねぇリメア、防具屋なのに普通の服とかあるじゃん? これ防具って呼べるのかな」
「さぁ? 私もこの世界にそんなに詳しく無いし」
おい。
いつも若き地球人をここに送り込んでるんじゃなかったのか。
「そういう時は店員さん呼べば良いのよ。店員さーーん!」
リメアが声を上げると、奥からギルドの制服を着た店員さんがそそくさとやってきた。
「この服ってどういう効果があるんですか?」
リメアはすぐそこに掛かっていた一着を取ると、訊く。
「こちらの防具は木綿で織られております。それに加え、ギルド公認の腕利き職人によって上質な魔力が練られているので、魔法に対する防御は高いと自信を持って言えます!」
ほうほう、魔法防御か。
魔法を受けたことは無いが、この服を着ていればパァン! と弾いてくれるのだろうか。
というか、魔法以外はどうなのだろう。
「物理防御の方は?」
「木綿の防具ですので、魔力が練られているとはいえ、やはり金属製の防具には劣ってしまいます……」
なるほどな。
まぁ、そりゃそうよね。
てか木綿が鉄の防具より堅かったら普通にビビる。
「このお洋服、おいくら?」
リメアが値段を尋ねる。
「8700ルンでございます」
え、買えない。
そんな値段払えない。
てか布切れ一着で約9000だと。
俺は前世で安い服しか着ない人だったから、お高く感じるな。
「あの……上下5000ルンで揃う防具はありますか……?」
俺は恐る恐る尋ねる。
無いとか言うなよ……言うなよ……。
「5000ルン以内、ですか……」
店員は顎に手を当てうーんと考えたあと。
「少々お待ちください」
そう言って奥へと消えると、いくつかの防具を持って帰ってきた。
「物理防御と魔法防御、どちら重視にいたしましょうか。動きやすさなども考慮するならば、魔法防御に優れている木綿の防具などが良いと思います。物理防御も考えるとなると、どうしても重くなってしまいますので」
戦闘の時って何が重要になるんだ?
この世界の戦闘において、どっちを取った方が安全なのだろうか。
「ねぇリメア、どれが良いんだろう。俺、全く分からないんだけど」
「うーん、私もあんまり詳しく無いけど、ミツルは魔法職でしょ? 魔法とかがある世界は大体前衛が守ってくれるから、動きやすくて遠距離の魔法攻撃に耐性のある洋服とかの方が良いと思うよ」
なるほどなるほど。
バッファーが前衛でバシバシやる職業ではないのは、戦闘経験ゼロの俺でも分かる。
まぁゲーム知識が正しければだが。
「また、こちらの防具だと物理防御こそあまりないものの、遠距離からの魔法攻撃ならかなりの衝撃を緩和してくれますよ」
店員は続ける。
「こちらの服は防水性が高く、さらに魔力コーティングが厚く施されているので、並の水属性魔法なら弾き返してくれます」
これは間違いなくレインコートだな、うん。
フードまで付いている。
一体この技術はどこから来ているのやら。
車とか銃器はまるで見ないのに、服の種類が豊富だったり町がキレイだったり、摩訶不思議である。
「こちらの服は少し重いですが、ふかふかで防寒完備。さらに僅かながら物理攻撃も緩和してくれます」
今度は半纏だ。
分厚いやつ。
てか、こんなんじゃ戦えんて。
動きにくいだろ絶対。
「ミツルミツル、これなんか良いんじゃ無い!?」
いつのまにか俺と店員さんの元を離れて店内を見ていたリメアが、パタパタと戻ってきた。
手には紺色の洋服を持っている。
「デザインはシンプルだけど、練り込まれた魔力によって物理攻撃を軽減してくれる……だってさ! 値段は5800ルンでちょっと張るけど……」
おぉ、なかなか良いのがあるじゃないか。
あっ、でも。
「ズボンも買いたいから、明日の朝ご飯も考えると、稼いだ分と合わせるとちょっと足りないかな」
「そっか……」
良い服だっただけに、残念だ。
リメアが服を元の場所に戻そうとすると。
「こちら当店で一番安価な紺のズボンです。価格は本来1200ルンなのですが……こちら、セットで6000ルンでいかがでしょう」
店員は、いつの間にやら手にしていたズボンをリメアに差し出す。
「うーん」
リメアは俺の体に服とズボンを重ねると。
「良いね!」
と言って親指をサムズアップした。
「あのぅ、このズボンって一体どんな効果があるんですか?」
「こちらは微弱ながら魔力コーティングが施されていますので、全属性に耐性があります」
え、全属性?
なんだよ、超お得じゃないか!
そう思っていると、リメアが耳打ちしてくる。
「全属性耐性があるってったって、この値段だよ? 無いよりマシって感じだね多分」
た、確かに。
でも、上下セットで6000ルンでしょ?
うーん……よし!
「じゃあ買います!」
「お買い上げありがとうございまーす!」
……そんなわけで、結局上下一緒に買ってしまった。
まぁ後悔はしていない。
7000ルンのお買い物を6000ルンで済ませられたのだ。
十分お得である。
そんなこんなで宿の一室に戻った俺達は、ベッドが一つしか無いことに気づいた。
「ねぇミツル。ベッドが一つしか無いのだけれど」
「うん、でも二人寝れるサイズだよ」
「うん、嫌なんだけど。なに普通に私と添い寝しようとしてんのよ。ほら、ミツルは床ね」
このひとでなし女神め。
せっかく宿が取れたというのに硬い床で寝かせおって。
いつか覚えていろよ。
こうして俺達は眠りに……あれ?
冬なのに、上着買ってないぞ?




