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088 ギクゥ!

 朝食を済ませ、ギルドに向かう。

 正直な事を言うと、この国に来てから何も進展が無い。

 クエスタの情報どころか、この国で起きた転移事件すら情報に乏しい。

 しかも特訓の最中、時よりオネエさんが


『ツユちゃん、空間把握よ! あそこ絶対何かいるわ!』


 とか言うもんだから、怖いったらありゃしない。

 監視でもされているのだろうか。


 ──キィィ……。


 ギルドの前に到着すると、ツユが扉を開ける。

 今朝のニュースが貼られたボードを見に行くのだ。

 冒険者のクエストが貼られた掲示板の右隣に、同サイズのボードがある。

 毎日確認しているのだが、なかなかお目当ての情報に近づけそうにない。

 時々、転移事件についての調査の話題が更新されているのが今のところ唯一の有益情報だろうか。



「ふむ……『バジリスクの討伐が達成』『今年の春野菜は豊作に期待』……」


 見た感じ、耳寄りな情報は無い。


「おい見ろよ! 『グロードア帝国方面の街道でカーバンクルの目撃情報』だってさ!」

「カゲトお前、本当にお金の話題には敏感だな」

「あっ! 見て、また転移事件の記事更新されてる! なになに……?  『原因不明の転移事件、解決が困難を極める理由』……?」


 リメアに続けて、ツユが読み上げた。


「『公国はその原因として、残存魔力の特異性を挙げており──』」

「なぁんだ、結局何にも分かってないんじゃない。調査が進まない理由をつらつらと述べられても、私達には何の足しにもならないのに」


 リメアはがっくりと肩を落とした。


「俺達で何か、この一連の事件についてもっと核心をつけるような事、できないもんかなぁ」


 俺の言葉に、皆が頭を悩ませる。


「おい皆、あれ、頼ってみても良いんじゃねぇか?」


 カゲトが指差す方向には、『アイラ探偵社』と書かれた貼り紙が貼られている。


「探偵! 良いじゃないカゲト! ナイスアイデア!」


 リメアが親指を立てる。


「その探偵さんに、転移事件の足掛かりを掴んでもらうって事?」

「ちょっと違ぇな、ミツル。探偵にはクエスタの事を調べてもらうんだよ」


 そうだった。俺達のメインは転移事件じゃなくてクエスタだった。


「でもさ、仮にその人が失敗してもお金とられるんでしょ? 探偵ってお高いイメージあるし」

「でもよ、結局何にも掴めてねぇんだから、モノは試しで依頼してみても良いんじゃねぇか?」


 まぁ、確かに……。


「だとしたら、もっと金が必要だな」


 ツユが、探偵社の貼り紙を見ながら言った。


「ここに書いてある金額の期間だと、調査の期間としては足りないと思うぞ」

「もっと稼がなきゃって事?」


 リメアがツユに訊く。


「そうだな。どちらにせよ、今の金額では足りん。今日は、我らでわかる事を調べよう」


 そんなわけで、俺達はこの町の図書館に向かう事にした。



 ***



 ディテクの図書館は、アドベルンの図書館の倍ほどの広さがある。

 しかも二階建てだ。

 古代ローマを彷彿とさせる内装は、中々に壮観だ。


「では、私は転移魔法について調べてこようと思う」

「じゃあ私はゾンビかな〜」


 俺はどうしようかな。

 ネクロマンサーについて調べるか? 嫌だなぁ。あれ関連、グロい写真とかいっぱい出てきそう。


「お主らも、何か興味深いものがあったら声をかけてくれ」

「じゃ、またあとでね〜」


 そう言い残すと、ツユとリメアは各々の目的の本棚へと向かってしまった。


「俺達はどうするんだ?」

「うーん。ネクロマンサーについて調べてみるとか? でも俺、ああいうのの惨い実験史料的なの苦手なんだよね」

「じゃ、そのネクロマンサーってのについては、俺が調べてやるよ」

「本当? 助かる」

「おう、任せとけ」


 カゲトはニカっと笑うと、冒険者関係の本棚へと向かって言った。


「さて……」


 どうしようか。

 調べるといっても、何を調べるのだ。

 クエスタ……ゾンビ……転移事件……

 頭を悩ませながら、目の前にあった本棚の前に入る。

 なになに……?

 冒険者、基礎スキルの書……?

 何となく本棚から引っ張り出し、開いてみる。


「こ、これは……!」


 そこには魔法職業の基礎魔法が、並んでいた。

 最後の方のページにちょこっとだが、バッファーの項目がある。


「やば……お宝掘り出したかもだぞ……!」


 俺はニマニマしながら、本を持って席に座った。


「なになに……?」


 魔法持久力増強。体内の魔力保管容量を増幅させる。また、消費魔力量を僅かながらに抑える。だと?

 なにこれ、絶対覚えた方がいいやつ!

 他にも、有用そうなスキルが幾つも記載されている。

 というか、なんで今までこの方法を取らなかったんだ。バカか俺は……!

 俺は早速、本の内容を試してみる事にした。



 ──三十分後。



「…………うん、無理だ」


 どうやら俺は魔法に関して、見て覚えるタイプらしい。

 本の中には『体内の魔力を〜』だの『身心の条件とその相乗効果によって〜』だの書かれているが、さっぱりわからない。

 そして何より。


「絵が欲しい」


 挿絵のひとつやふたつあっても良いものだが、それが何一つない。

 よって、全くイメージが湧かない。

 腕力増強や脚力増強の魔法を応用する感じでやってみたりするのだが、まるでできる気がしない。


「はぁ……」


 俺は諦めて、基礎魔法の書を元の位置に戻した。

 …………あれ? 俺、なんか忘れているような……。


「おいミツル、何か分かったか?」

「ひっ」


 突然ツユに肩を叩かれ、軽い悲鳴をあげる。


「あ、ツユちゃん! それにミツルも! タイミングバッチリだね!」


 続けて、何冊か本を抱えたリメアがパタパタと走ってきた。


「おいリメア。図書館内で走るんじゃねぇよ」

「そう言うカゲトは声でかいよ」


 そして何と、カゲトまで手に数冊の本を抱えて持ってきたのだ。


「皆、何かしら見つけたようだな」


 ツユが俺の前方に出てくる。

 やはり、何冊かの本を抱えていた。


「ん? どしたのミツル。すっごい汗だけど」


 リメアが心配そうな顔で俺を覗いてきた。


「べ、べべ別に? 何でも無いよ?」

「そーいやミツル、お前はなに調べてたんだ?」


 ギクぅ!


「お主、何も持っていないようだが……」


 ギクギクぅ!


「い、いや、その…………」


 三人が、ジトーっと疑いの目を向けてくる。


「…………ごめんなさい」


 この後俺は、皆に少し怒られた。

 そしてその割に、皆大した情報を得てはいなかった。


「…………なに、ミツル。そのビミョーな反応は。何にも調べてないアンタは文句言う筋合いはないよ」

「はい、本当、すいません」

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