080 銭ゲバ野郎
観音開きの大きな扉。
それを両手で掴み、引こうとして…………。
「あああああ!!」
突然のリメアの叫びに、慌てて手を離した。
「な、なんだよびっくりしたな」
「ミツル、お前結構ビビりだなぁ」
俺の反応に、カゲトが肘で突っつきながら揶揄ってくるが、癪なので無視する。
「いや、お父さんに近況報告するの忘れてたって思い出しただけ。それじゃ、行ってくるね」
そのまま流れるように、神聖術版テレポートで天界へと消えていった。
「それだけかよぉぉ!」
俺のツッコミも、もうリメアには届かない。
だってテレポート後だもの。
「まあまあ、リメアの自由人はいつもの事じゃないか」
ツユが、観念しろという風に言ってくる。
「全く、困ったもんだぜ」
「いや、カゲトもそっち側だぞ」
『カゲトもリメアと同じ自由人枠だぞ』と言う意味で言ったつもりだったが、カゲトはどうやら理解していないようだ。
頭にハテナが浮かんでいる。
「とりあえず、入るか」
俺は再びドアノブに手をかけて、ドアを押し開けた。
「わお、凄いな」
カゲトの第一声は、驚きだった。
「おぉ…………!」
俺も、思わず声を漏らす。
アドベルンのギルドの十倍ほどはあろうかという広さで、天井も吹き抜けになっていて高い。
二階はロフトのような造りで、武器屋や防具屋が併設していた。
「ショッピングモールだ……」
カゲトが、再びポツリと呟く。
確かに、ショッピングモールに近い。
しかし、木造の階段の上やレンガの壁に、ファンタジー要素がたっぷりとある。
正直言って、俺のめちゃめちゃ興奮する内装だった。
「うむ、なかなかだな、ここは」
ツユが顎に手を当てて玄人みたいな事を言っている。
「いかにもケルト音楽が流れてそうな感じ……!」
俺は鼻息荒く辺りを眺める。
「とりあえず、クエストの掲示板を探そう」
俺とカゲトは、ツユの後ろをついて行く。
「うへえ、人がいっぱいだなぁ」
「クエスタ討伐以来だぜ、こんな数」
カゲトとそんな事を言い合いながら、歩く。
時々壁から出っ張る柱には、何かの広告の貼り紙が幾つも貼られていた。
「『君も商人にならないか。商人ギルド』」
「『どこよりもフレッシュな野菜、ギルドマーケット』」
俺とカゲトは、そんな広告を流しで見ながら読み上げていく。
「お、ミツル、見ろよ、『アイラ探偵社』だってさ!」
探偵社?
「探偵なんかいるんだな!」
「確かに……」
探偵なんて無縁の存在だったから、この仕事も中々にファンタジーな心持ちがする。
「ここだな」
ツユの声に、前を見る。
どうやら到着したようだ。
カゲトと俺は、正面にある貼り紙の掲示板を眺める。
「で、でけぇ……」
「お、多い……」
そして、今度は掲示板の大きさとクエストの量に驚愕した。
「(大きさが)アドベルンの五倍はあるぜ……」
「(クエストの量が)アドベルンの五倍はある……」
カゲトと俺は、そんな感じでハモる。
「ここはかなり発展しているな。やはり、帝国という大きな後ろ盾があるからだろうか」
「帝国?」
「ああ、私も詳しくは知らないが、ここはグロードア帝国の『帝国領土分割統治政策』とやらによって、ディテク公爵という者に治められている国だ」
ふむふむ……? よくわからんが、まぁよくわかる必要も無いだろう。
「お主ら、それよりも良さそうなクエストを探すぞ。何かあったら言ってくれ」
「うん」
「おう」
俺達三人は、掲示板に貼られているクエストの中から、良さげなものを探す。
「せっかく新しい国に来たのだ。どうせならダンジョン探索系のクエストが良いな」
「え、やだよ。暗いし、怖い魔物いっぱい居るし」
「何を言っているのだ。私の職業を忘れたのか? 探検家の最も力を発揮できる場はダンジョンだぞ」
そうだった。
フィールドスキルだっけか? 探索に便利なスキルってやつ。
「それに、魔物が怖くて冒険者などやってられるか」
そ、そうだけど…………。
俺は助け舟を求めてカゲトに視線を送る。
カゲトは俺の視線に気づく、が。
「俺はガッポガッポなクエストならなんだって良いぜ!」
どうやら視線に気づいただけで、俺の心中には気づいていないらしい。
銭ゲバ野郎が…………。
「これなんかどう? スライムの群れの討伐。一個体につき400ロウ…………ロウ?」
なんだ、ロウって。
「金の単位だ」
ツユがクエストの紙を覗き込み言う。
「そんなことよりも、だ」
ツユは俺に顔をずずいと近づける。
「お主、またスライムか。一度倒しただろう。あんな雑魚をまた狩りに行くなど、小心者にも程がある」
いや、だって痛いの嫌だもん。
「此奴を見てみろ」
ツユは俺を見る顔を固定したまま、カゲトを指差した。
「ヘルハウンドの群れの討伐。一匹につき8500ロウ……何匹いるんだろうなぁ。これは……カーバンクルの討伐、か。なんと一匹につき70000ロウ! すっげ、すぐ金持ちじゃねぇか……ぐへへ」
そして、その伸ばした腕をそっとおろす。
「ま、まぁ、奴も奴であれはどうかと思うが……」
ツユは深呼吸をして、続けた。
「私が言いたいのは、あのくらいの心持ちでクエストに挑めということだ」
ツユの言いたい事はなんとなく分かる。
冒険者たるもの、仕事にびびってるんじゃねぇという事だろう。
「分かったよ……」
俺は渋々頷いて、スライム討伐のクエストを元あった場所に貼り戻した。
そうこうしている内に、リメアが戻ってきた。
「あ、いたいた。探したよぅ」
「お帰り。どうだった? オケノス様、なんか言っとった?」
「今日は特に何も。これからも引き続きよろしく的な事は言ってたかな」
リメアはそう言って、掲示板を見やる。
「ねぇ、今日行くクエストは決まったの?」
「いや、まだ決まっていない」
ツユが答える。
「なぁなぁ! 俺、この中のどれかに行きてぇんだけど、どうだ?」
カゲトがいくつかの紙を剥がしてきたので、それを三人で覗き込む。
…………ふむふむ。
「「却下」」
俺とツユの声がハモった。
「えー? 私は別に良いと思うけど」
おいおい。
こんな大金or命の賭けみたいなクエスト、誰が受けるってんだ。
「ジャンケン、いっとく?」
リメアが拳でグーを作って言ってくる。
が、自分の命をジャンケンの天秤にかけるつもりなどない。
散々話し合った結果、皆が少しずつ我慢をして、無難な魔物討伐に決まったのだった。




