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079 時計

「部屋の……部屋の鍵を掛け忘れている!!!」


 耳を劈く声に、嫌でも目が覚める。


「ツユぅ、うるさぁい」

「あ、あぁ、すまない、しかし…………」


 俺はベッドから身を起こして、目を擦った。

 頭が少しずつ稼働し始める。


「で? 鍵を閉め忘れたって? ……鍵を閉め忘れた!?」


 まずいじゃないか! なんか盗まれてたりしないよね!?

 俺とツユは、急いで自分達の荷物を確認する。


「大丈夫だろ……二人とも、心配しすぎだ……ふぁぁ……」


 手枕をしながらこっちを見るカゲトが、眠そうに欠伸をかました。


「ツユちゃんもミツルも、心配性なんだからぁ……」


 リメアに至っては、そう言ったあとすぐ、寝息が聞こえてきた。


「お主ら、少しは危機感を持つのだ」

「そうだよ、旅先での荷物管理は最重要案件じゃないか」

「過ぎたものは仕方がないぜ、旅は道連れ世は情けってなぁ」


 涅槃かと見紛うくらい穏やかな口調で言ってのけたけど、多分その諺の使い方間違ってるぞ。


「カゲトの言った事はよく分からんが、次からは気をつけなければな」

「ね。何にも起こらなくて良かったよ」


 入国早々、物盗まれるとか洒落にならん。

 …………まぁ、盗まれるような高価なもの持ってないけど。


「とりあえず、今日はギルドに向かおう」


 ツユがそう提案する。


「ええ〜……今日からさっそく働くの?」

「忘れたのか? 我らの所持金を」


 うげっ、そうだった。

 俺達一文無しなんだった。


「ぐがー……ぐがー……」


 うるさいイビキが部屋に響き渡る。

 そちらを見ると、手枕をしたまま再び眠りにつくカゲトの姿があった。


「寝るの早」

「ミツル、起こすぞ。このナイトとクレリックにも、きっちり働いて貰わねばな」

「りょーかい」


 俺はツユに言われるがまま、リメアとカゲトを起こしたのだった。



 ***



「眠いぃぃ……」

「リメアは怠惰だなぁ。俺はピンピンしてるぜ!」

「ホント、カゲトって寝起き良いのな。さっきまでうるさいイビキかいてたくせに」

「褒めてるのか?」

「まぁ、部分的には」


 宿の外に出た俺達は、そんな会話をする。

 まだ明るくなったばかりだと言うのに、町はそれなりの数の人々で賑わっていた。


「ギルドは…………あれだろうか」


 ツユが、町の中でも目立つ大きな建造物を指差す。


「分からないなら、行ってみよ!」


 リメアが嬉々として言う。


「そうだな。ほれミツカゲ、行くぞ」


 なんか変な略し方されたな。


「おう!」


 そしてカゲトも平然と受け入れてる。


「行こうか」


 俺とカゲトは、リメアとツユの背中を追って歩き出した。


「夜はあんまり見えなかったけど、新しい町ってなんかワクワクするよね!」


 俺達が二人の背中に追いつくと、リメアがそう言ってきた。


「そうだね。まさに発展した"ファンタジーな町"って感じで、興奮ものだよ」


 そう。いかにも剣士や魔法使いが歩いていそうな感じ。

 …………というか、剣士も魔法使いも歩いてる。

 なんなら耳の尖ったエルフっぽい人とか、動物の耳が生えた人とかもいる。

 アドベルンではそういう人殆どいなかったから、なんというか新鮮だ。

 川のせせらぎと町行く人々の声を聴きながら、俺達は歩く。

 少し歩くと、町の中心にある広場に出た。

 川が広場を突き抜け、その両端には二本の大きな橋がかかっている。

 そして何より俺が驚いたのは……。


「時計だ…………」


 広場の中央、川の上に建てられたその大きな建造物は、時計台だったのだ。

 川との接水面には、大きな水車がゆったりと廻っている。


「時計だよ! 時計! 一カ月とちょっとぶりに見るなぁ時計!」


 こっちの世界に転生してから体内時計だけが頼りだった俺は、興奮を抑えきれず、リメアの両肩を持ってブンブンと揺らす。


「あへあへぁぁ〜…………ミツル、私、頭が……」

「あっ、ご、ごめん」


 俺は凄い勢いでヘッドバットをしていたリメアに気づき、手を離した。


「ミツルの気持ち、俺は分かるぜ」


 隣ではカゲトが、時計台を見上げ目元を拭う仕草をしてみせる。

 涙は出てないけども。


「お主ら、そんなにこれが珍しいのか?」


 ツユは、そう言うと自身のポケットから…………


「私のをやろうか?」


 懐中時計を取り出したのだ。


「なっ!!!!」


 俺は予想だにしないところから出てきた小さな時計に、驚きのあまり言葉を失う。


「な、なんで持って…………」

「そりゃあ、時間がわからなかったら困るだろう」

「でも、アドベルンでは一度も…………」

「あの町の輩はどいつもこいつも時間にルーズだったからな。必要無かったのだ」


 なん……だと……。

 俺はそのまま、膝から崩れ落ちた。


「大丈夫かミツル、おーい」


 カゲトがしゃがんで俺の肩に手を置いて、揺さぶってくる。


「おおミツル! 死んでしまうとは情けない……」


 リメアが言うと、しゃがんで祈るようなポーズをとり始めた。


「いや、まだ死んでないって」

「あ、復活した」


 俺はそのままヨロヨロと立ち上がる。


「ねぇリメア、この世界って魔力乱流で精密機械とかダメなんじゃなかった?」

「そういやそんな世界だったな、ここ」


 カゲトが相槌を打つ。

 俺の疑問に対し、リメアは言葉を濁した。


「えっと、確かね……。熱を使った回転運動がダメとか、そんなんだったはず……」

「…………分からないんだね?」

「そ、そんな事ないよ! 私、女神だから!」


 分からないらしい。


「いや、良いよ、ありがとう」

「ねえちょっと! 諦めないでよ! もっと私を頼ってよ!」


 なんか頼って欲しいらしいリメアをテキトーにあしらいながら、俺達はギルドへと向かった。

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