078 公王の苦悩②
「と、客人の持ち物は以上になります」
宰相ローイルは、公王ライファルに告げる。
「そうか……入国審査の時の持ち物と、変わりは無いな」
「えぇ、そのようにございます」
時刻は早朝五時。
冒険者四人組の荷物の再検査を命じたライファルは、その結果の報告を受けていた。
「そもそも、部屋の鍵は掛かっておらず、罠系統のスキルも存在を認められなかったと……」
「分かった。引き続き見張るよう頼む」
宰相ローイルは深々と頭を下げ、部屋を後にした。
「うむ……」
冒険者の四人組は、鍵をかけずにぐっすりと寝ていた……らしい。
しかもその内三人は、大きな音を立てても起きないのでは無いかと言うほどの爆睡っぷりだったと報告が上がっている。
それほどまでに無防備な者どもが、国を敵に回す犯罪を犯すだろうか。
もしくはこの一連の流れそのものが、何かの罠……?
公王は、頭を悩ませる。
──コンコン。
再び、扉が叩かれた。
「入れ」
ライファルの声に一人の女性が入室する。
美しい白銀の髪と、それにふさわしい純白の肌。
「失礼します」
高い身長と、その美しい体を覆う鎧を纏った彼女は。
「ディテク公国騎士団団長シルル・ハクワイト、参りました」
名乗り、頭を垂れた。
「顔を上げよ」
髪が少し靡き、彼女のオッドアイが顕になる。
右目は青で、左目は水色。
その不揃いな目の色までもが、彼女の美しさを際立たせるものであった。
「で、どうだ。町の様子は」
宰相ローイルには偵察や監視、門兵の総統を。
そして騎士団団長シルルには、騎士団の総統、及び町の警備に当たって貰っている。
彼女もまたローイルと同じく、公王ライファルが信用し自室に入る事を許した、数少ない人物の一人であった。
「今のところ異常はありません」
「そうか…………」
少しの沈黙。
「公王殿下、一つ、疑問を申しても宜しいでしょうか」
「良いぞ」
「私は一度目の国民失踪事件のあと、この警備の命を賜っております。しかし二度目の失踪事件、私はそれを防ぐ事が出来なかった」
シルルは顔に、後悔の念を滲ませる。
「なぜ私は、この任務を続ける事を許されているのでしょう」
拳を握り、震えるシルルに。
「お前は自分の事をもう少し、誇ってみてはどうだ」
公王ライファルはそう告げた。
シルルは帝国本土の貧民街出身。
大きなハンデを背負いながらも、高い筋力値と剣技の才能を以って、騎士団の長にまで至った実力者。
ライファルは、そんな彼女が自身を謙遜する事に、疑問を抱いていた。
「しかし……」
「この国に、お前程強い戦士は他に居ないだろう」
シルルは騎士でありながら、魔法適性も持ち合わせていた。
高い魔力と魔法持久力。
彼女のステータスカードに刻まれた数値が、それを物語っていた。
騎士の道を選ばず、魔導の道を進む事だってできただろう。
羨まずには居られないほどの才だ。
「私はお前を信頼している。だからこの任務を任せているのだ」
信頼。
その言葉に一瞬、シルルの左口角が上がる。
「殿下……。その信頼に応える事のできるよう、誠心誠意、努めます」
シルルは一礼をすると、部屋を後にした。
***
「なぁぁぁぁ!?」
朝、突然部屋に響いた大きな声は、ツユのものだった。
「私とした事が!! 部屋の……部屋の鍵を掛け忘れている!!!」




