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076 お尻が限界

 あれから俺達は、かれこれ二時間程質問攻めを受けていた。

 部屋は狭く、窓も小さなものしかない。

 これじゃあまるで犯罪者の取り調べだなぁ。

 違いがあるとすれば、検事の態度とふかふかのソファくらいか。


「ありがとうございます、では次に……」


 検事……じゃ無かった。

 入国審査官が、次の質問を繰り出そうとする。


「まだ続くのかよこれぇ」


 カゲトが俺の耳元で溜息を吐きながら囁いてきた。


「俺もそろそろお尻が限界だよ」

「だよな、いくらソファがふかふかでも耐えられないぜ」

「おいお主ら、うるさいぞ、もう少し落ち着いて……」

「ぐがー……」

「リメア! 寝るな!」


 ドゴッ!


「ひ、ひゃい! すいません!」

「全く」

「あのー皆さん、何か……」


 俺達のドタバタに気づいた審査官が、質問してくる。


「い、いえ、何にもないのだですだ」

「ブフッ……おいミツル、ツユ今何て言ったか聞こえたか?」

「うん、プッ……ち、ちゃんと聞いたよ……」


 俺とカゲトは笑いを堪えて肩を震わす。


「むにゃむにゃ……すぅー……」


 俺の左隣からは、再びリメアの寝息が聞こえてきた。


「わ、笑うな! 寝るなー!」


 羞恥か憤怒か、ツユが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「フゴッ!」


 ツユの声に、再びリメアが目を覚ました。


「お、起きてる! 起きてます!」


 嘘つけ、鼻ちょうちん作ってた癖に。


「あ、あはは……」


 やべ、審査官の人苦笑いしてる。


「なんか、ごめんなさい……」


 俺は反射的に謝った。

 他三人も俺に続いて、謝る。


「いえいえ、賑やかで楽しそうですね。(俺も仕事やめて冒険者になろうかな)」


 おや、独り言が漏れ出てますよ。

 そんな感じでやり取りをしていると、部屋のドアがノックされ一人の男が入ってきた。

 審査官は、それに気づくと素早く起立。

 頭を軽く下げた。


「ねぇねぇミツル、なんかあの人の格好チョー派手なんですけど」


 さっきまで眠そうにしていたリメアが、今では眠気を感じさせない口調で、俺の服を引っ張って囁いてくる。

 俺は入室してきた男の容姿を眺めた。

 …………確かに、派手だなぁ。

 目元を覆う仮面だけでも異様なのに、赤いマントまで羽織っている。

 仮面とかさ、目立ちたいのか目立ちたく無いのか分からないなこの人。


「あなた方が、ベルンから訪れた冒険者一行ですね」


 俺達は頷く。


「私は審査長のラーです。長い間ここに留めてしまって、申し訳ないと思っています」

「いえいえ、気にしないでください」


 と、答えたものの、本当はめっちゃ気にしてる。

 俺達の大事な時間を無駄にしやがって、って思ってる。

 カゲトが俺の横腹を突いて『俺達被害者なんだから、遜らなくても良いだろ』なんて小声で言ってきた。


「私どもにも理由がございましてね。あなた方は知っているのでしょう?」

「ああ、知っております」


 ツユが答えた。


「ベルンではゾンビ襲撃ですか……。いやはや、近頃は物騒ですな」


 仮面の男は乾いた声で笑う。

 目元は隠れていて見えないが、かなり切迫した気持ちを抱いているように見えた。


「まだ噂はこちらに届いていなかったのだな」

「ええ。ベルンと我がディテク公国との人の往来は少ないですからな」


 仮面の男は、少し間を置いて再び口を開いた。


「今夜は私どもが宿を提供させて頂きたい。宜しいですかな? ここに留めてしまった事への、お詫びでもあります」


 宿を、提供?


「「良いんですか!?」」


 俺とリメアは身を乗り出してその話題に飛びつく。

 そんな俺達に、審査官の二人は若干気圧された。


「あっ……えっと、失礼しました」

「しました」


 俺とリメアは我に帰り、再びソファに腰掛ける。


「我らとしても助かりまする。実はお金を持っていなくて」


 ツユが、落ち着いた口調で続けた。


「では、着いてきてください。案内いたします」


 ラーさんが部屋の扉を開けた。

 俺達四人は、扉を抜けて廊下に出る。


「やったな! 棚ぼただぜ!」


 カゲトが扉を出るなりはしゃぎだす。


「そうは思わぬ。私は疲れたぞ……」


 お堅い雰囲気がツユには辛かったようで、げっそりとしている。


「まあまあ、思わぬ宿の獲得に、今は喜びましょ!」


 宿の件ですっかり眠気が吹き飛んだ様子のリメアも、カゲトと同じくはしゃぎだした。


「そうだね。お金無かったし、旅で疲れてるのに馬小屋とか倉庫は俺も御免だよ」


 俺も皆の意見に同意する。


「少し待っていてください」


 ラーさんはそういうと、扉を閉める。



 ***



 バタン。

 公王ライファルは、扉を閉めると、審査官に向き直った。


「あの"客人"四人組には、"案内役"をつけて差し上げなさい」

「了解しました、ラー審査長」


 もちろんこの審査官は、ラーの正体が公王ライファルである事を知っている。

 しかし万が一のため、ラーと言う呼び方は変えなかった。

 そして客人とは要注意人物、案内役とは即ち監視役のことである。

 この時より、公国によるミツル、リメア、ツユ、カゲトら四人パーティーの監視が始まった。

 そして、四人はそんな事を知る由も無かった。

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