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075 公王の苦悩①

ディテク公国公王ライファル=グロードア=ディテクは、頭を抱えていた。

原因不明の失踪事件。

それが今朝"再び"起こったのだ。

五日前は二十人。

そして今回も、それに近い数が行方不明となっている。

それ程の大きな事件でありながら、国は未だに解決の糸口を見出す事ができていなかった。


「お前はどう思っている」

「今回の転移も、貴族の屋敷が多立ち並ぶ区域です。これが偶然で無ければ、そこに解決の糸口があるやも知れませぬ」


宰相ローイルは答える。


「ふむ…………」


公王ライファルは、顎に手を当て思考を巡らせた。

一回目と二回目の事件の共通点は、その一点だけなのだろうか。

考えるが、結論が出てこない。


「私も部下に探らせてはおりますが……なにも掴めず、申し訳なく思っております」

「謝る必要はない。これは異常事態なのだから」


公王ディテクは、窓の外を眺める。

宰相ローイルは跪いて胸に手を当てた。


「では、私はこれで」

「あぁ、ご苦労だった」


ローイルは立ち上がり、扉から部屋を後にする。

前例の無い事件である為に、解決に向けた議会を行っても、進展は無かった。

最後の議会では、国外からの攻撃ではないかという一つの可能性が、最も有力なものとして上がった。

なので国防強化の一環として、帝国以外の他国からの入国には厳しい検査を行う手筈になっている。

そして、帝国に兵の要請も行った。

帝国とは、グロードア帝国のこと。

ディテク公国は帝国グロードアの属国である。

帝国は、政策により国を四つに分割した。

その東に位置するのが、ライファル公爵の治めるディテク公国だ。

現在のディテク公国周辺。

西は帝国本土、北はノーゼス公国。

南はディテクやノーゼスと同じ、帝国の属国であるサウシーリア公国である。

…………サウシーリア公国ではあるのだが。

現在ディテクの隣を事実上治めているのは、ブロンティナ伯爵だ。

公王ディテクの脳裏に、金髪碧眼で顔立ちの整った伯爵が思い浮かぶ。


「…………っ!」


ドンッ!


公王ディテクは、机に拳を叩きつけた。


「皇帝への忠誠心も無い若造が! 伯爵などと下賤な身で……っ!」


ライファルが公王になってからというもの、ブロンティナはライファルを必要に追いかけ回し、領土を譲ってもらおうと企てていた。

しかしブロンティナが皇帝への忠誠心などなく、あるのは出世欲だけだと言う事に気づいていたライファルは、それを無視し続けた。

するとどうだろうか。

今度奴は、公王サウシーリアに狙いを変えたのだ。

友好を深め、公王の第一王子と自身の娘の政略結婚を約束する事で、公王サウシーリアから領土の一部を分けてもらうことに成功した。

それ以来、奴はサウシーリアの土地の一部を手にし、ブロンティナ伯爵領として治めるに至っている。

そして、公王ディテクへの態度も非礼なものへと変わった。

幾度もの嫌がらせを受け、公王ディテクは憤なにか制裁をお与えになるに違いない。

ブロンティナ伯爵が何を企んでいるのかは明白だ。

いずれは皇帝の地位を奪うという事しか考えていない。

皇帝はその事にも気づいて居るはず。

きっと賢明な判断をなさる事だろう。

今回の失踪事件も、ブロンティナ伯爵の策略なのだろうか。

嫌がらせにしては度が過ぎるものではあるが、奴ならばやりかねない。

私だけでなく、国に住まう貴族をも対象にするとは……!

再び公王は怒りが湧き上がってくる。


「ふぅ…………」


公王は自身の憤りを深呼吸で打ち消す。

一国の王として、事は冷静に分析せねばならない。

公王はブロンティナ以外の可能性を考える。

ディテク公国の東に位置する国、ベルン共和国連邦。

単一種族、多民族の国家。

民主政治を謳い、元首が短期間で変わる国。

第一、あの小さな連邦国家がこの巨大な帝国の勢力へと攻撃をしかけてくるなど、普通は考えられない。

しかし、楽観視をしてはいけないということも分かっていた。

彼の連邦内の都市の一つ。

その祖は、帝国の貴族だ。

君主制に反対した者たちの立てた国である。

しかしそれもかつての話。

仮に集団転移の魔法の開発が成功していたとして、そのような昔の因縁を、今更ながら果たしに来るものだろうか。

今回二度目の失踪事件を受け、明日の早朝には再び議会が開かれる事になっている。

公王の中では、可能性は二つに絞られていた。

ブロンティナ伯爵か、ベルン共和国連邦か──。


──コンコン。


扉がノックされる。


「ローイルです。門兵からのご報告が」

「入れ」


公王ディテクの声に、宰相ローイルが入室する。


「ベルン方面から来た不審な冒険者四人が、入国を希望していると……」

「分かった。私が出向こう」


公王ディテクは身分を隠すため、目元を覆う仮面と赤いマントを羽織り、部屋を後にしたのだった。

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