074 マ◯オ
空が茜色に染まる時間。
ディテク公国はもう目前に迫っていた。
「門番! 門番がいるぜ!」
カゲトが指差して告げる。
「マジ? 俺も見たい」
俺は前方に目を凝らした。
確かに、二人の門番が槍を持って佇んでいる。
「本当だ……なんか、ファンタジーって感じ……!」
門番を見てテンションが上がる俺。
アドベルンには門番居なかったからね。
「今までも十分ファンタジーだったじゃない」
リメアにジトっとした目で言われる。
「そりゃそうだけどさ。ほら、いかにも中から"勇者一行"が民衆に讃えられながら出てきそうじゃない?」
「まぁ、確かに……」
リメアが顎に手を当て、ジト目のまま町の方に目を向けた。
「でしょ? 後は防壁の後ろにお城の屋根でも見えてれば完璧なんだけどなぁ」
「今思ったけど、ゲームのお城って警備ガバガバよね。お姫様すぐ攫われる」
「言われてみれば。しかも毎度同じ相手に」
「そして赤い帽子がトレードマークの配管工が助けに行く」
「それマ◯オじゃん。勇者一行どこ行ったよ」
そんな事をリメアと語り合って、ケラケラ笑っていると。
「お主ら、何の話をしているのか知らんが、入国審査があるだろうから準備しておけよ」
常時ジト目のツユに言われる。
「「「入国審査?」」」
そして、ツユ以外の三人の言葉がハモった。
「当たり前だろう」
「アドベルンではそんなの無かったじゃない」
「門番も居なかったし」
リメアと俺は言う。
「それはあの町が平和ボケしすぎて居るだけだ。私が初めてあの町に訪れた時は驚いたぞ」
あの町、そのレベルで治安良かったのか。
「てか俺、一度も海外旅行行ったことねぇんだけど、入国審査って要は何すりゃ良いんだ?」
カゲトの疑問に、ツユはどこからともなく取り出したメガネを掛けて、解説を始めた。
「諸君。良いか? 一つ! 手持ちのステータスカードを見せる。これは旅人が何処の国、町から来たのかを確認するためだ」
そう言って、ツユは自分のステータスカードを取り出す。
「見ろ。お主らのステータスカードと、私のステータスカード。デザインが異なっているだろう」
俺達は、顔を寄せてそれを見た。
枠の模様とか、色が若干違うな。
「二つ! 換金。隣国の通貨ならば、その場で換金してくれる」
へぇ、換金してくれるんだ。
「まぁ我らは文無しだから、この手順は踏む必要無いがな」
お財布をひっくり返して、一滴も流れていない涙を拭いて見せた。
「三つ! されと言われたこと以外は何もするな!」
…………と言うと?
「良いか? 入国する時、不審な行動をして目を付けられたら終わりだと思え! その国では何がいけない事か、しっかりと見極める事が大切だ!」
ツユはメガネをクイっと上げて、続ける。
「その国では何が禁忌か、分からん。だから町に来た理由はいついかなる時でも"観光"だ。分かったな」
俺とカゲトは頷いた。
「き、急に怖くなってきたぜ……」
怖気付くカゲトの気持ち、よく分かる。
だって、俺も怖くなってきたんだもの。
入国前に脅かさないで欲しい。
「そこに関しては大丈夫だよ! 私、図書館でディテク公国の事はしっかり調べたから!」
リメアが胸を叩く。
それは心強い! ……とも、言えないんだよな。
リメアのドヤ顔を見て、逆に不安になってきてしまった。
「だがまぁ、こうは言ったものの何かの疑いをかけられる事などそうそう起こらないさ。私も幾つか国を跨いでいるが、こうして無事だしな」
「不安を煽るんじゃねぇ……」
「なんだカゲト、意外にもビビるではないか」
「び、ビビってねぇし!」
いや、カゲトはビビって居てくれ。
俺もビビってるから。
俺だけビビってるのはなんか嫌だから!
そんな俺の嘆きなど知る由もなく。
町への入口が近づいてくる。
「そこの四人! 冒険者か?」
左の門番が、突然大声でこちらに向けて言った。
肩幅が広く、がっちりとした男だ。
「あぁ!」
ツユも、相手に聞こえるように大声で返す。
やがて町の門の前まで来ると、今度は右の門番が話しかけてくる。
「ようこそディテク公国へ! 旅の目的は?」
「観光だ」
「事件の調査です!」
ツユの声に被せるように、リメアの声が響いた。
「事件……?」
二人の門番が、怪訝な表情を浮かべる。
「い、いやいや、何でもないのだです」
お、ツユの口調が崩れた。
「少し良いかな」
そういうと、ツユはリメアの服の袖を引っ張って、自分に寄せた。
「ふぎゃっ! ちょっと、何すんのさツユちゃん!」
大きな声で抗議するリメアと裏腹に、声を潜めてツユは言う。
「余計なことは喋るなと言ったろ!」
「何も嘘はついてないよ?」
「良いから、少し黙っていてくれ」
「でもでも私、ディテクでやっちゃいけない事とかちゃんと調べてきたし……」
「返事は"はい"か"分かった"だ!」
言い切ると、俺とカゲトの方を一瞥する。
リメアの事を見張っておけって意味か?
…………いや、違うな。
多分、『お主らも余計な事は言うなよ』って意味だ。
はいはい、分かりましたよ。
リメアの方を見ると、納得いかないと言う顔でツユを見ていた。
「すまなかった。目的のことだったな。四人で旅行でも、と……」
ツユはそんなリメアを気に留めず、門番との話を再開する。
が。
「事件、とは、何のことだ」
左の屈強な門番が俺達を睨みつける。
「別にやましい事では無い。我らはベルンから来た。お主らももしかしたら、耳にしているのではないか? ゾンビ襲撃の話を」
観光では押し通せないと悟ったツユが、本当の事を話した。
「ここで長話もアレなので、ちょいとついてきて貰いましょうか」
右に立っていた門番が、笑顔を崩さずに言ってくる。
あー……ダメだこりゃ。
話、長くなるやつだ。
笑顔の方の門番に案内され、町の中を防壁沿いに歩いていく。
「はぁ、こういうのがあるから嫌なのだ。無難に観光と言っておけば良いものを……」
前方を歩くツユからは、悲痛な独り言が聞こえた。




