071 俺も、努力しなきゃな
その後俺達は、外の池で水浴びをした。
ジャンケンの結果、男子先行女子後攻だった。
ログハウスでカゲトと寛いでいると、さっぱりしたリメアとツユが入ってくる。
「あ゛あ゛ぁぁぁ〜、さっばりぃぃ」
リメア、めっちゃおっさんみたいな声出すやん。
「水浴びはやはり気持ちが良いな」
ツユが濡れた髪を手で梳かしながら言った。
「髪、濡れたままで平気か? 寒そうだけど」
気遣いができるナイスガイなカゲトが、二人に訊く。
「欲を言うなら乾かしたいけど……」
「私は風魔法の扱いは苦手だ。リメアも使えないしな」
お? そういえば俺、この間一人だった時に風魔法習得したぞ?
「風よ」
俺はなんとなくそう唱えた後、風魔法の魔法陣を作った。
「ミツル! それって風魔法!? いつの間に!」
「見張りしてた時に、ツユが使ってたの思い出してやってみたんだよ」
俺の解答に、ツユが驚き呆れた様に言う。
「お主は本当に、魔法の習得だけは早いな」
俺は風魔法の魔法陣を大きくして、二人の方向に向けた。
「制御はできるのか」
「俺の魔力じゃ、全力出しても"扇風機の強"くらいの風しか出ないから大丈夫だよ」
「センプウキノキョウ?」
困惑するツユを置いて、リメアがガニ股で構える。
「よし来い!」
どうやら全身で風を受ける気らしい。
「ちょっと待つのだ」
ツユに止められる。
「何?」
ツユは両手を構えると、魔法を発動した。
「スパーク!」
俺の風魔法陣が、火花を散らせて電気を帯びる。
「ツユちゃん、一体何したの?」
「そのままだと風が冷たいだろう。これで温風が出る様になるはずだ。ミツル」
顎をクイッとこちらに向ける。
風魔法発動しろってことか。
俺はツユの指示通り、風魔法を発動した。
──ブゥゥゥゥン
「あったかぁい」
「あぁ、これは良いな」
喜んでもらえて良かった。
…………にしても、扇風機だな。いや、温風だからドライヤーか。
羽が回ってる訳でも無いのに、音までそれっぽい。
「俺も俺も!」
「あぁカゲト! アンタ女の子の間に割って入るとか痴漢だよ!」
「どけ! お主はもう乾いているだろう!」
「扇風機の取り合いとか、お前ら兄妹か!」
俺は笑いながら、三人にツッコミをかました。
***
「火、消すぞ」
「サンキュー、おやすみ」
「おやすみ」
「すぅすぅ……」
リメアだけ既にダウンしてるなぁ。
俺達は床に敷くタイプの寝床、つまりは布団を敷いてそれに寝転がった。
ツユが暖炉に灯っていた火を消したので、部屋が暗くなる。
「ふぁぁぁぁ……」
寝不足気味だった俺は、灯りが消えると、すぐにリメアの後を追って夢の中にダイブした。
「すぅすぅ」
「ぐがー……」
ツユは、すぐさま聞こえてくる寝息に驚く。
「ミツルももう寝たのか」
「二人とも寝不足だったみてぇだしな」
カゲトが答える。
「そうだな。寝不足は自業自得だが」
「ははっ! 全くだぜ」
カゲトは笑うと、そのまま横になる。
少しすると、大きなイビキが聞こえてきた。
「カゲトももう寝よった」
ツユはため息を吐いて、三人の寝顔を眺める。
「手が掛かる奴らだが……」
ツユは微笑んで、告げた。
「お陰でいつも楽しい。ありがとう」
皆が寝静まり、小屋には静寂が訪れる──。
***
辺りはまだ薄暗く、多くの生き物が活動を始める前の時間。
俺は、目を覚ました。
頬に涙が伝っている。
「はぁ…………俺も、努力しなきゃな……」
俺は一つの夢を見た。
悪夢。
それは、自分の人生を辿ったものだった。
そして、これからの自分も見た。
怖かった。
その夢は、小学生の自分から始まった。
「野球クラブ、入ってみる?」
「いい」
「ミツル、バレーとか興味あるか?」
「無いなぁ」
夢の中の母親と父親は、様々な習い事を勧めてきた。
だが、俺は全てを断った。
塾に通っていたから成績は良かったし、ゲームがあったから楽しみにも困らなかったからだ。
そもそも俺が運動をしなくなったのは、小学一年生のとある日の出来事にある。
友達に、サッカーに誘われた。
やったことが無いと言うと、その友達は教えてあげるから、と言うので参加した。
ルールもよく分かっていなかった俺は、もちろんそのゲームでは足を引っ張った。
だけど、皆遊びに夢中で、誰もやり方を教えてくれなどしなかった。
「どう蹴ったら真っ直ぐ飛ぶの?」
「そんなの慣れだよ、慣れ」
ぶっきらぼうにそう言って、相手にしてくれなかった。
「ミツル! そっちいった!」
「え?」
「何やってんだよ! 今の決めれただろ!」
「俺、初めてだし……」
「ボールの後ろ下がってろ!」
「ボールの後ろってどこだよ!」
「ミツル、どいてて。もういい」
「なんだよ! そっちから誘ったくせに!」
そいつとはそれ以降、絶交だった。
しょうもない理由かも知れない。
でもあの頃の俺には、とても許せるものでは無かった。
それからと言うもの、球技というものを避けてきたのだ。
親の誘いも断って、勉強して、ゲームして。
父親が、せめて泳げる様になっておけと、俺をプールに強制で連れて行ってくれなければ、おそらく俺は何もできない奴になっていただろう。
夢は続いた。
転生後の自分だ。
周りにはリメア、ツユ、カゲトがいる。
「お主、死にたいのか!? ヘルハウンド如きに負ける体力で、よく冒険者なんかやってるな!!」
「アンタねぇ。冒険者やってんのにその体力ってどーなのよ」
「お前、魔法すら弱っちぃのに、これからやっていけるのか?」
皆俺を罵って、置いて行ってしまった。
そんな、怖い夢だった。
「ぐすっ…………」
夢如きで泣くなんて。
俺って弱虫だなぁ。
異世界に来てから、泣いてばかりな気がする。
上体を起こして、袖で涙を拭う。
太陽はまだ登っていないが、辺りが薄暗いので、そろそろだろう。
もう一度寝れる気がしない。
俺は、皆を起こさないよう忍足で外へ出た。




