070 なんか昇天してね
小屋の中は、中々豪華なものだった。
後方には暖炉があり、布に穴こそ空いているもののギリギリ四人座れる程のソファ、そして小さなテーブルが一つ置いてある。
おしゃれだし"小屋"って呼ぶより"ログハウス"って呼んだ方が似合うかも。
まぁ気持ちの問題だけど。
「ミツル、外に結界魔法の装置があっただろう?」
ん? 結界魔法の装置?
「ドアの脇にあったでしょ、四角いやつ」
リメアに言われ、思い出す。
「あぁ、あれね」
「あれに魔力を注いできてくれないか? 結界も薄かったし、魔力の補充が必要だ」
「了解」
ツユに言われ、俺は再び外に出た。
「お、あったあった」
四角い木製の装置の扉を開けると、魔鉱石が手描きの魔法陣の上に立っている。
随分と長い年月ここを守ってきたのだろう。
魔鉱石の元の紫色が、微かに確認できる程度に燻んでいる。
「これに注げば良いんだな?」
俺は両手で魔鉱石を包むように囲い、魔力を注いだ。
…………通りが悪い。
結構本気で注いでるのに、微かに光る程度でなかなか魔力を吸ってくれない。
こりゃあ時間かかりそうだな。
全力で魔力を注ぎ続けて五分ほど。
小屋を囲うように張られていた結界が、厚く強度を増してきている事に気がついた。
俺の注いだ魔力が、やっと効力を示してきたようだ。
そこからさらに十分ほど。
魔鉱石が魔力を吸わなくなった。
どうやら満タンになったようだ。
立ち上がって、伸びをしてから辺りを見渡した。
結界には俺の魔力が行き渡り、厚みがかなりのものになっている。
「すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……」
大きく深呼吸をした。
いやぁ、かなり魔力を持っていかれたぞ。
この魔鉱石、絶対もう寿命だよ。
もう俺の魔力、四分の一も残ってねぇ。
多分この作業、今日俺が使った魔力の三分の二くらい占めてるぞ。
ツユとかリメアがこれに魔力満タンになるまで注いだら、魔力切れでぶっ倒れてしまうのではなかろうか。
俺は重い体を動かし、小屋の中に入った。
「終わったか。お疲れ」
「お疲れ様ぁ」
「お疲れぃ」
ツユ、リメア、カゲトが、各々俺を労ってくれる。
…………三人ソファでくつろぎながら。
全く羨ましいものだ。
俺はその間魔力を注いでたってのに。
なんて思ったが、いつも助けられているのは俺の方だという事を思い出したので、そんな感情はしまっておいた。
「ほれ、水だ」
ツユが魔法でテーブルの上のコップに水を注いでくれる。
俺はそれを持つと、ぐびぐびと飲み干した。
うまい。
暖炉には火が灯っていて、中は中々暖かい。
結界のおかげで見張りをたてる必要も無いし、今夜はぐっすり眠れそうだ。
──グゥゥ〜……。
誰かのお腹の音が響く。
「お腹すいたぁ」
どうやらリメアのお腹の音だったらしい。
「俺もぉ」
リメアに続いて、カゲトがお腹を摩りながら言った。
「そうだな。そろそろご飯にするか」
「いやったぁ!」
「飯だ飯!」
リメアとカゲトが、ソファから飛び上がって喜んだ。
そんなわけで、俺達は小屋の外、池の隣に来た。
結界の範囲内なので、魔物の心配は無い。
「ファイア」
皆で集めた木の枝に、火が灯る。
「焼いていくよぉ!」
続いてリメアが、バフフィッシュを枝に刺したものを、地面に突き立てて並べた。
「…………そう言えばさ、バフフィッシュって魔物じゃないの? 何で死んでもそのまま?」
俺はリメアに尋ねる。
「確かドロップアイテムって言う区分だよ。魔物にも、自分の体の一部を肉としてドロップしたりするのがいるのさ」
「でもこの魚、見たところ全身残ってるよ? これって死体残ってる判定じゃないの? 魔物ではなくない?」
「知らないよ、私学者じゃないし」
学者じゃないけど女神じゃないか。
世界の創造主的な存在じゃないんですか。
あ、でも、リメアがこの世界創った訳でもないのか。
そんな事を考えながら、火を眺める。
「じゅるり」
やっべ、よだれ垂れてきた。
魚の芳ばしい匂いが、鼻から抜けていく。
服の袖で拭う。
絶対美味しいぞこんなの。
俺は同意を求めようと、隣で同じく魚の焼き上がりを待つ、カゲトの方を見る。
「うまそ〜」
「お、おい! かかカゲト! よだれ! よだれが凄いよ!」
俺が目にしたものは、地面に届きそうなくらい長いよだれを垂らしたカゲトだった。
「ん?」
「おいこっち向くな、あぁ! よだれがぷらんぷらーんって! あぁぁぁ!」
間一髪、カゲトのよだれ攻撃をプロテクトで防ぐ。
プロテクトにはべったりと、カゲトのよだれが付着した。
「じゅるじゅる……すまんミツル」
「全く、汚いなぁ」
カゲトは垂れた物を、袖で拭った。
「…………そろそろじゃないかな」
リメアが、皆にバフフィッシュを配ってくれた。
「ひぁぁぁ! 美味そぉぉぉ」
「カゲト! またよだれ!」
「おお、すまんすまん」
全く。
ツユとリメアを見習って欲しいよ。
そう言おうとして二人の方を見ると、よだれダラダラのリメアと、もう魚にかぶり付くツユの姿があった。
「早っ!」
「おぬひらもははふふえ、ふはいほ」
美味しそうに頬張るなぁ。
「遂に……! いただきまぁす!」
リメアが、凄く大きな口で、焼き魚にかぶりついた。
「んんん〜〜〜っっっ! 美味ひぃぃぃ!」
美味しそうに食べるなぁ、この二人は。
「俺らも食べようか」
「おう! その言葉、待ってたぜ!」
「「いただきます!」」
俺達も、リメアとツユに続いて魚にかぶりついた。
「!!!?」
美味い! 美味すぎる!
口に入れた瞬間、ふわっとした舌触りと共に、じゅわぁぁぁっと美味しいやつが口に染み込んでゆく。
あぁ……生きてて良かった……。
「ミツル、なんか昇天してね?」
「それほど美味かったのだろう」
「焼いた私と火魔法使ったツユちゃんに感謝することだね!」
今夜は、ぐっすり眠れそうだ。




