066 天界への定期報告③
手を掲げ魔力を練ると、天界へのテレポートを行う。
焦っていたからか、かなり短い時間で来る事に成功した。
が、その反動かかなり体が重い。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
お父さん、どこだろう。
と言うかいつもの流れだと、私の知られたく無い物を漁られて、見られて……。
「……!」
私は咄嗟に自室へと向かう。
まさかだけど、今ちょうど私の部屋を詮索している最中なんじゃ……。
ドアノブに手をかけ、バタンッ! と勢いよく開けるが。
「いない……」
予想は外れていたようで、そこにお父さんの姿はなかった。
ひとまず胸を撫で下ろすも、すぐにまた嫌な事を考えてしまう。
まさかもう、いろいろ漁ったあとなんじゃ……
「……!!」
私は咄嗟に、ベッドの下やクローゼットの隅に隠したあんなものやこんなものを確認する。
「ほっ……」
良かった。
何も取られていないようだ。
再び胸を撫で下ろしたのも束の間。
「リメアちゃぁん」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然背後から聞こえた声に、びっくりして飛び跳ねる。
「お、お父さん!?」
「そうかそうかリメア。クローゼットの隅だな?」
「え、えぇ? 何が?」
まずい。
「「…………」」
しばらく続く沈黙。
「「……………………」」
それを破ったのは、お父さんだった。
「空きあり!」
「あっ! しまっ……!」
咄嗟のお父さんの行動に対応できず、クローゼットに隠していた物を取られてしまった。
「ええっとなになに? 『甘すぎる恋の物語』第十巻……」
「だぁぁぁぁ!!」
取り返そうとするが、お父さんが漫画を高い高いするせいで届かない。
「ふむふむ、なになに……? 『私の事どう思ってるの? ねぇ……』『どうって、もちろん』『そのキスは人生で初めて味わった、甘いキ……』」
「読み上げるなぁ!!!」
私はやっとの思いで取り上げると、押し入れに投げ戻す。
「ハッハッハッハ! リメアもそう言う年頃かぁ」
「うるさい! 黙って! というか私の部屋から出て!」
私はお父さんの背中を強引に押し、部屋から出る。
「なぁリメア、十巻って事はまだ九巻残ってるって事だよな?」
私はお父さんの言葉をガン無視し、リビングに押し込むと、照明を落とす。
これでいつもの天界だ。
全く。
次は自室に南京錠でも掛けておこう。
ベッドの下はバレなくて良かった。
「で、お父さん。私いつも通り近況報告に来たんだけど、一体どこで何やってたの?」
「それよりも『甘すぎる恋の物語』の一巻を……」
「お父さん、張り倒しても良いかな」
私が右手のひらを高く上げると。
「ハハハ! 悪かった悪かった! 許せ」
余裕そうな表情なのがムカつく。
「で、本題だけどさ、何やってたのさ。いつもならリビングでゴロゴロしてるのに」
「仕事だよ。ミツル君を轢いちゃったトラックの運転手、どうにかして無罪にできないかってね」
「そんな事したら、ミツルの親族の方達は納得できないんじゃないの?」
"息子を殺した人が無罪になった"って思ってしまうだろうから。
「そこら辺の辻褄合わせに戸惑ってるんだ。誰かが得をすれば誰かは損をする。善悪の関係だよ。そんな因果と業の均衡を保ち、最も最適な形で世界に落とし込む為には……」
「ちょっと待ってお父さん、分かんない」
急に難しい話をされては理解が追いつかないではないか。
「ガッハッハ! お父さん程の神になるならもっと研鑽が必要だな!」
ムカつくぅ……。
「さっきも言ったように、要はトラックの運転手もミツル君の親族も、果てはそのトラックを作る自動車会社まで、全てが丸く収まるように努めてるってわけだ」
「ふぅ〜ん。なかなか難しい仕事してたんだね」
「おっ、デレか?」
「違うわよ、やかましい」
「ハッハッハ。……何度も言うが、今までに無い事例だからな。こちらもコレをどうしたものか、会議ばっかの毎日だよ」
お父さんが疲れたような顔で言う。
「まだまだ仕事も残ってる。上の会議でまとまったものが、こっちの仕事として流れてきてるんだ」
そう言って、お父さんは神聖力を使い、資料の山を私の手元に寄越す。
「うわっ、重っ……」
「だろ? さっき言った運転手の件に、ミツル君の観察記録、堕天記録の再確認に、各世界の生物数問題……」
「うげえ、聞いてるだけで頭痛くなってくる」
「そうだろう? お父さんも頑張ってるんだからな」
グッタリとした顔で言う。
「そうだ。ミツル君は今どんな感じだい?」
「あんまり変わったところは無いよ。本人は『魔法持久力はあるのに魔力が低いから火力が出ない』って嘆いてるけどね」
お父さんは顎を手で撫でながら。
「そうかそうか」
と言って、記録帳に書き記した。
「クエスタに関しての新情報は?」
「何も。ディテク公国に着いたら、何か分かるかも」
「了解、お互い、引き続き頑張ろうな」
「うん、頑張ろう」
私達はそう言って親指を立てる。
そんな感じで私は、天界を去ったのだった。




