064 痴漢! とかエッチ! とか叫ばないだろうな
俺とリメアは、見張りをしていた。
「暇だなぁ。ねぇミツル、なんか面白いこと言ってよ」
「んな無茶な」
面白いこと、面白いことねぇ……。
「人間の骨ってね、大人になる過程でどんどん減っていくらしいよ」
「そうなの? それって、どこの骨が無くなっちゃうわけ?」
えっ。
確かに。
「考えたことなかった」
俺の言葉に、リメアがクスッと笑う。
「浅はかねぇ」
ぐっ。
「じゃあリメアはなんかあるの? 面白い話」
「私? そうだなぁ」
リメアは月を指差すと。
「この世界の月ってね、魔力の塊なんだよ」
「何それ、気になる」
「お、掛かったなぁ? 続き、訊きたい?」
俺は頷く。
「ガス惑星とか何とかって、いっぱい種類があるでしょ? あの月はね、魔力の塊で出来た、"魔力惑星"なんだよ」
なるほど……?
「魔力の量が変動するから、満ちたり欠けたりするの」
「地球だとさ、月があるから潮の満ち引きがあるとか、よく聞くじゃん? この世界の月が魔力の塊となると、そういうのはどういう事なの? この世界の海は潮の満ち引きないの?」
「いや、あるよ。原理はよく分からないんだけどね」
分からないんかい。
「神様でも?」
俺の疑問に、リメアが少しムッとした顔で
「女神たる私でも、分からない事はあるよ。生まれた時から神で、世界の管理をするのが仕事だからね」
言って、付け足す。
「世界ってのは数多あるの。そのそれぞれに創造神がいる。でも、一番最初に創られた世界も、どうやって天界が出来たのかも、分からない」
神様も似たようなものなのか。
「世界ってのは、分からない事だらけなんだよ、ミツル君」
なんか『決まったぜ』みたいな顔してるけど、言ってる事当たり前なんだよなぁ。
「ううっ……寒くなってきたね……ミツル、それちょっと貸して」
「ちょっ、おまっ」
突然、リメアに羽織っていたマントを剥ぎ取られる。
「暖かいぃ」
「ねぇ、俺が寒いんだけど」
「レディファーストだよ、ミツル君」
「俺の物なんだけど。レディファーストもクソも無いんだけど」
「しょうがないなぁ、ほら」
リメアがマントを広げて、自分の隣に空きを作る。
「何、俺も一緒に暖まっても良いよってこと?」
「うん」
「隣に入った途端、痴漢! とかエッチ! とか叫ばないだろうな」
「私をなんだと思ってるのよ」
ほれほれ、と隣を叩くので、渋々リメアと一緒にマントの中に入った。
「どう?」
「どう、とは」
「嬉しい?」
「何で」
「麗しき女神様と同じマントであったまれて」
「別に」
嘘である。
実は結構嬉しい。
腐ってもリメアは美少女だから。
「本当は嬉しいんでしょ? ミツルったらツンデレなんだから」
リメアはケラケラ笑いながら
「可愛い子だねぇ」
なんて抜かした。
「うるさい。やっぱり出る」
体が熱くなってきたので、マントの中から出る。
「あははは! 照れちゃって! ミツルちゃぁん?」
こいつ、調子付きやがって。
「中身がアレな女神様に誰が照れるんだよ」
「ん? 今なんて?」
「中身がアレって言ったの」
「アレ、って何かな?」
「何でも無いよぅバ神様」
「何を言うかこの野郎!」
俺の挑発にまんまとハマり、リメアが掴みかかってくる。
「残念、プロテクトぉ」
伸ばされたリメアの腕が俺の胸ぐらに到達する寸前、プロテクトにより阻まれた。
「なっ!? 卑怯な!」
お、リメアが地団駄踏んでるぞ。
愉快愉快。
「もう怒ったよ! ミツルのへっぽこプロテクトなんか、すぐにふにゃふにゃなんだからね!」
言うと、リメアは両手にマジックボールを生成する。
「ほう?」
「ミツル、絶対にコレ、壊してあげる」
リメアが女神とは思えない邪悪な笑みで言ってくるので、俺はプロテクトに魔力を込める。
リメアは両手のマジックボールを薄く楕円形に伸ばすと、プロテクトに触れた。
バキィィ! と、なかなか派手な音と共に、両者が衝突する。
「ATフィー◯ド、全・開」
リメアは邪悪な笑みをうかべたまま、マジックボールを押し込む手に力を込めた。
「くっ……」
プロテクトが、中和されている……!
「ふふふふふ……!」
やがてプロテクトが、中心から溶けていく。
「っ……! 強い……!」
「終わりよ、ミツル……」
やがて、プロテクトはねばねばと溶解し、無くなってしまった。
「見たか! ……っとと」
リメアは喜んだのも束の間、前のめりに倒れてくる。
「ちょっ」
そしてそのまま、俺の腹にダイブした。
リメアの息がお腹に当たってくすぐったい。
「痛たた……」
「大丈夫?」
リメアを起こそうと肩に手を掛けたその時。
「お主ら、何をやっている」
突然背後から聞こえた声に驚く。
リメアも同じく驚いて、凄い勢いで顔を上げた。
「我らが寝てるからって、見張り中に抱擁とは」
「「違うよ!」」
そして、ハモる。
「ますます怪しいな」
「「なんで!!」」
また、ハモる。
というか……
「「何でツユ(ちゃん)起きてんの!!」」
またまたハモる。
「というかミツル!? 私の真似しないで!」
「してないよ! たまたまだって!」
「お主ら、本当に仲が良いな」
「「どこが!?」」
再びハモり、リメアに胸ぐらを掴まれる。
「真似しないでって言ったでしょ!」
「だから違うって!」
「まぁまぁ、お主ら、仲が良いのは分かったから」
ツユは俺達を宥めると、続ける。
「そろそろ交代の時間だろう?」
え、そーなの?
「ツユちゃん、それで起きたの?」
「まあな」
「凄いな」
「睡眠は冒険者の基本。このくらいのことはできなければやっていけないぞ」
ツユはそう言いながら、カゲトの鼻ちょうちんをつついて起こす。
「ふごっ」
「カゲト。交代の時間だ」
「ん? ……あぁ、……ふごー」
再び出来た鼻ちょうちんを今度は両手のひらでバンと叩く。
「ほら! 起きろ寝坊助!」
「ふごっっ! す、すんませんすんません」
カゲトが目をシパシパさせながら上体を起こした。
「ほら、変わるから、お主らは寝ろ」
「やったぁ! おやすみぃ」
言うなり、シートの上に飛び込むリメア。
全く、元気だなぁ。
そう思いながら、俺もシートに寝転んだ。




