062 起きろー。交代だぞー
カゲトは、俺の胸で寝てしまった。
「ったく、こういうことを率先してやる奴はモテるんじゃなかったのか?」
仕方がないので、カゲトをツユの隣に寝かせる。
「四時間くらいしたら起こして交代してもらうか」
三人の寝顔を眺める。
「ったく、どいつもこいつも良い顔で寝やがって」
なんとなくカッコつけたくてそんな独り言を呟く。
そして一人で勝手に恥ずかしくなって視線を森に移した。
今のところ気配とかは無いな。
と言っても、俺の気配察知能力が本当に役に立つのか分からないけど。
暇なので、カゲトのロングソードを借りて、一振りしてみる。
随分と重いな。
よくこんなもん振り回せるわ、ホント。
次に、スラッシュを発動する。
すっかりスキルの発動に慣れたようで、音を立てずにロングソードに魔力を注げるようになっていた。
淡く輝くロングソードを眺めながら。
「異世界転生、か……」
今自分の置かれている状況を反芻する。
俺、転生者なんだもんな。
いまだに夢なんじゃないかなんて考える事もある。
でもその度に死んだ時の痛みが全身を襲うので、すぐに現実に引き戻されるのだ。
「はぁー」
大きな溜息を吐き、丸太の上に仰向けになる。
澄んだ空気に満天の星々。
魔物さえいなければ完璧なんだがな……。
そんな事を考えていると、遠くから微かに音が聞こえてくる。
俺は起き上がると、寝ている皆の前に立ち、立て掛けていた杖を握って構えた。
ザッザッと、少しずつ音は近づいてくる。
やがて現れたのは、中型のスライムだった。
襲ってくる気配は無い。
ここを通り抜けるつもりのようだ。
警戒は怠らず、杖をそいつに向けたまま見守る。
やがてそいつは、俺達に興味を示さないまま通り過ぎて行った。
俺はその場に力無くへたれる。
この調子じゃあ、襲ってきた時対処できるのかなぁ。
ところでスライムって、何食べるんだろう。
襲って来なかったってことは、少なくとも狩りとかはしなさそう。
スライム討伐の時は多分、分裂期だったから襲ってきたんだろうし。
草食……?
死骸を貪る……とか?
いや、魔物は死肉落とさないしなぁ。
動物の死骸をそんな簡単に見つけられるとも思えないし。
この辺にいっぱい棲息してるって事は、やっぱり草食の説が濃厚だな。
暇潰しのために次に俺が行ったのは、ツユの風魔法の模倣をする事だった。
実は、転生前から考えていた超しょうもない事がある。
両手が塞がっている時にドアを開ける魔法が欲しいなぁ、と。
そこで風魔法だ。
この魔法があれば、半開きの内開きドアだったら開けられるのではないか。
早速練習をしてみる。
すると、割とすぐに再現できてしまった。
「ウインド!」
俺の手から、風の塊のようなものが発射される。
まぁ、威力はお察しだが。
ポケットからステータスカードを取り出すと、そこには"ウインド"と記載されていた。
これで半開きのドアを手ぇ使わずに開けられるぞ!
戦闘では役に立ちそうに無いが。
いくら放っても、木の葉がサワサワとさざめく程度だ。
他に使い道あるかな?
…………扇風機の変わりにはなるかもしれない。
そう思って自分に風を当ててみる。
……うん、扇風機だ。
体感"強"くらいの風はあるのが救いではある。
「うぅ……寒っ……」
自分に風を当てて、辺りが冷えてきた事に気づく。
俺は羽織っていたマントに包まった。
あったかい……。
それからは星を眺めたりくだらない妄想をしたりして、時が過ぎるのを待った。
……そろそろ四時間経ったかな?
月の位置を見て、そう判断する。
時計が無いと不便だなぁホント。
今度リメアかツユにこの世界に時計はあるのかどうか教えて貰おう。
俺的にはあると思うけどね。
だって、時間分からないと文明とか発達しなさそうだし。
皆んなの眠っている所に行って、カゲトを揺さぶる。
「起きろー。交代だぞー」
「んっん〜……むにゃむにゃ……」
ったく、すやすやだな。
「おーい、交代してくれー。俺が寝る番だー」
「んぁ……ミツル……? おやすみー……」
二度寝だと? そうはさせるか。
「起きろ! 俺も眠いんだぞ!」
俺はカゲトの耳元で一喝する。
「はいっ! すんませんした!」
カゲトは飛び起き、左右をキョロキョロ。
「……なんだミツルか。もっと優しく起こしてくれよな」
「悪りぃ悪りぃ、カゲト、後半の見張り、よろしくな」
俺は軽く謝罪をしながら、カゲトの寝ていた位置に寝転がる。
「おう、おやすみ」
俺はカゲトの声を聞き、安心して眠りについた。




