061 え、ちょっ、俺まだ何も
「お料理は任せて!」
と、リメアが言うので、俺達三人は待つ。
あれだけ惨いやり方で取ったうさぎなのに、美味しそうな匂いによだれが出てしまうのが悔しい。
「出来た!」
お皿に乗って出てきたのは、こんがり焼けたうさぎ肉。
てっぺんには葉が添えられ、スパイスがまぶしてあった。
「……じゅる」
「ミツルぅ? よだれよだれ」
くっ……。
俺はリメアから視線を逸らし、服の袖でよだれを拭き取る。
「なぁんだ。料理作ってる間ずっと卑怯だなんだって言ってた癖に、可愛いとこあるじゃない」
「……うるさい」
くそ。
ニッコニコしやがって。
「いっただっきまーす!」
右隣ではカゲトが大声で言うと、ガツガツと食べ始める。
「んんっ! うんまー!」
左隣のツユも、無言で頬張り、満足そうに目を閉じていた。
俺もうさぎ肉を口に入れる。
「うまっ」
初めて食べたが、これは美味いぞ。
柔らかくてふわふわとした食感。
閉じ込められていた肉汁が溶け出し、口に広がる旨み。
繊維質なのが玉に瑕だが、それを差し引いても十分過ぎるほどの美味しさだ。
うさぎ肉は鶏肉に似てるって聞いたことがあるけど、個人的には鶏肉より好きかも。
「どう? おいしい?」
「サイコーだぜ! これ!」
「美味いぞ。じゅわ〜っと口に広がって。イモの時と言い、リメアの作ったものは本当に美味いな」
「でしょでしょ〜。ミツルは?」
「マジで美味い。最高」
「うっふふ。そうでしょうそうでしょう」
ドヤ顔でのけ反っているが、この美味さの料理が出せるなら納得な態度だと思う。
「「ご馳走様!」」
「ありがとう、リメア」
「皆さんお粗末さまでした!」
お腹いっぱいだ。
シンプルだけど、それが良い。
俺は料理なんて殆ど出来ないので、正直ちょっと尊敬する。
「はぁ食った食った!」
カゲトがお腹を摩りながら満足そうに言う。
そして空を見上げて。
「お! 見ろよ、凄え星だぞ!」
指を刺した方向を皆で眺める。
「きれい……」
リメアがそんな声を漏らす。
確かにこの世界に来てから応接不暇で、のんびり空を眺める事は無かったな。
いつもよりも、きれいな気がする。
「皆、寝る準備をするぞ」
ツユがそう言いながら、レジャーシートのようなものを地面に広げる。
「私一番!」
リメアが寝転がろうとするが。
「まぁ待て。見張りを決めなければな」
「「「見張り?」」」
ツユ以外の俺達三人はハモる。
誰か一人が起きて見張ってろってか。
……まぁそうなるか。
魔物のいる世界だ。
野宿は危険なものだろう。
「見張りか。それだったら俺達がやるぜ」
カゲトが突然、俺の肩を掴んで言ってくる。
「ホント!? ありがとう! じゃあ私寝るねー」
「カゲト、ミツル、助かる」
「え、ちょっ、俺まだ何も」
言ってない。
そう言おうとしたが、カゲトに手で制される。
「おやすみなさーい」
「おやすみ」
リメアとツユは、そう言うとすぐに眠ってしまった。
「寝るの早。てかカゲト、俺がいつ見張りを請け負うって言ったよ」
「こう言うのは男の仕事だろ?」
「俺みたいな平等主義者は仕事を性別で決めないんだよ」
「屁理屈こねてねぇで、まぁ俺の方来いよ」
俺は渋々、カゲトの隣に腰掛ける。
倒木のイガイガとした感触が、お尻に伝わってくる。
「こういうことを率先してやる奴はモテるぞ?」
「そんな単純なものかなぁ」
「外も内もイケメンな俺が言うんだ。間違いないさ」
ぐっ……。
外も内もイケメン、か。
あながち間違いじゃないからムカつく。
「カゲト一人で見張りやってくれたって良かったのに」
「一人で朝までなんて無理だぜ。それに一人じゃ寂しいしな」
「なんだよ、カゲトったら可愛いなぁ」
「やめろよ気色悪ぃ」
俺達はクスクスと笑いあう。
「本当に星、綺麗だなぁ」
「そうだね」
二人で夜の星空を眺める。
「日本じゃこんなのなかなか見れねぇよ」
「どこに住んでたの?」
「長野。ミツルは?」
「神奈川」
「案外近かったんだな」
「確かに」
長野県か。
「というか長野県だったら結構星、見えないの?」
「見える所に行けば見えるかも知れねぇけど……」
カゲトは再び空を見上げて、続ける。
「こんなにいっぱい見えるもんかなぁ」
どこか悲しげな表情だ。
「なぁミツル、ちょっと自分語りしても良いか?」
突然、日本語で喋り出すカゲト。
「え、うん。良いよ」
少し驚きつつ答える。
俺の返事を聞くと、カゲトはゆっくりと話し出した。
「俺さ、"社家"の生まれなんだ」
「シャケ? おにぎり?」
俺の疑問にカゲトはクスッと笑うと、続ける。
「違うよ。神社の生まれ。親父が神主なんだよ。ちっこい神社だったけどな」
「へぇ……神社、か…………えっ!? マジ!?」
超初耳なんですけど!?
「驚くよな。俺、口も悪りぃし。まさか神様祀る家のガキだなんて思わなかったろ?」
「確かに意外かも」
「ちょっとは否定してくれ……」
何自分から言っといて落ち込んどるのだ此奴は。
「でもほら、口悪くてもカゲトって何だかんだ優しいしさ。さっき自分でも言ってたでしょ? 俺は外も内もイケメンだからって」
「そうだな、ありがとう」
こちらを見て微笑み、続ける。
「神社ってさ、世襲なんだ。けどよ、俺、神主なんかなりたく無かったんだ」
「それは……どうして?」
「俺の将来を強要されてるみたいでさ。神なんて居るわけねえ、馬鹿馬鹿しいって、家を出てさ」
俯いたカゲトは、何かを堪えるように。
「境内の見回りしてたら、イノシシに襲われて……」
気が付けば異世界に転移してた。
カゲトはそう、告げた。
「俺、家族に酷いこと言って出てきちまった。これっきり、もう二度と会えねぇのかな……?」
カゲトの肩が震えている。
「ちゃんと話を聞いておくべきだった。俺も、ちゃんと家族と話していれば良かった。そんな後悔ばっかりで……」
カゲトの頬に、涙が伝う。
「俺……後悔してもしきれねぇよ……」
俺は、啜り泣くカゲトの背中を摩る。
吹っ切れたのか、カゲトは俺の胸に抱きついて、声を出して泣いていた。
「ゔゔ……」
俺はカゲトの背中を摩り続ける。
今までこいつの事を誤解していたかも知れない。
図太くて、強い奴だ、なんて思っていた。
でも、違う。
我慢してたんだ。
いつも戦闘の時は、頼れる存在だ。
自分は頼られている、自分がしっかりしなければ。
そんな気持ちが、カゲトにはあったのだろうか。
こいつは"転生"じゃ無い。
神隠し……"転移"だ。
俺と違って、あっちで死んだ訳じゃ無い。
仮に俺も転移だったら、この状況に納得できなかったかも知れない。
俺はただ、カゲトの背中を摩り続ける事しかできなかった。




