058 痛かったでちゅねぇ
「ミツル君? さっきは痛かったでちゅねぇ」
「しばくぞクソ女神」
「痛いの痛いの飛んでけぇ」
「野郎もしばいたろうか」
あれからずっと、リメアとカゲトに揶揄われている。
「うむ……」
「ところでツユちゃん、さっきから何考え事してるの?」
「いや、カゲトは挑発スキルを覚えた方が良いかも知れぬと……」
なに? そんなスキルあんの?
ゲーム的に考えれば、敵のタゲを取るスキルだと思われるけど。
「それってタンクには必須級のスキルじゃない? なんで今までそんな便利なスキルのこと黙ってたのさ」
俺はツユに抗議する。
「いや、挑発スキルにはある重大な欠点があってだな」
重大な欠点?
「なんだか知らねぇが教えてくれよ、そのチョーハツってやつ。この痛がりを守ってやらねぇとだから」
そう言って俺の頭を撫でてくるカゲト。
「あ、待って、こいつ既に挑発スキル覚えてたわ」
俺はそう言って、カゲトに反撃する。
そんな俺を躱し、ケラケラと笑うカゲト。
「ふむ。そろそろ、休憩にするとしよう」
ツユが俺達に告げる。
「マジ!? やった!」
「やっと休めるぅ!」
喜ぶ俺とリメア。
「まだまだいけるぞ? 俺は」
カゲトが言うが。
「いや、此奴らを見ろ」
ツユが俺達を指差す。
そこには濃いクマのゾンビ女神と、脚をプルプル振るわせる子鹿な俺がいたのだった。
***
と、言うわけで。
俺達は良い感じの木陰と倒木を見つけ、四人で腰掛ける。
「あ〜疲れた〜」
俺はそう声を漏らし、空を仰ぐ。
葉の隙間からは、太陽がチラチラと覗いては消える。
「私、もう限界……」
リメアはそう言うと、地面に横たわり、そのまま眠ってしまった。
「げっ、こいつ眠やがった」
「リメアがこんなに眠そうな理由、カゲトにもあるんだからね?」
すっげぇイビキだったもんなぁ。
「え? そうなの?」
まぁこいつは何も気づいてないみたいだが。
「では、ご飯にするか」
ツユが言う。
「お、待ってました!」
「良いなぁはよ食いてぇ!」
騒ぐ俺達を見て微笑むと、ツユがバックパックからお金を取り出す。
「「…………ん?」」
「ミツル、買ってきてくれ」
…………は?
「え、どうやって?」
「お主、テレポートを使えるだろう」
え、確かに使えるけど。
「私は梅干しおにぎりを頼む」
「ちょっと待った」
いきなりすぎて話が見えん。
「なんだ?」
「つまり俺に、テレポートでアドベルンまで戻って、なんか買ってこいと?」
「あぁ」
…………。
「魔力の使いすぎは良く無いんじゃ」
「お主は余る程あるだろう。魔法持久力」
いやまぁそれはそうだけどさ。
「俺はなんかしょっぱいの頼むぜ」
え、うん。
「分かった。……テレポート」
俺はなんだかなぁと思いつつも、頑張って歩いてきた道を一瞬でテレポートした。
「戻ってきた」
…………今まで歩いたのはなんだったのか。
いや、分かるよ?
テレポートは自分が一度行ったことがあって、記憶が鮮明なところじゃ無いとダメってのは。
だから歩いてるのだって分かる。
でも……なんだかなぁ。
なんか、違うよなぁ。
頑張って山を登頂して、帰りはケーブルカーで帰るみたいな。
そんな複雑な気持ちだなぁ。
俺はなんだかモヤっとした気持ちで、ツユとカゲト、あとリメアが食べそうな物を買って戻った。
「……ただいま」
「お! 戻ってきた!」
「おかえり」
俺はツユとカゲトに頼まれた物を渡す。
「これ、フランクフルトか? 最高かよミツル! サンキュー」
そう言って、カゲトは棒に刺さった肉に齧り付く。
「酸っぱい! うまい!」
ツユも心底うまそうに、おにぎりを頬張っている。
…………まぁ良いか。
これはこれで、ピクニックに来た感じで楽しいし。
「リメア、起きろー。ご飯だぞー」
俺はリメアを揺さぶりながら、自分用に買ったパンと一緒に、リメアのおにぎりを取り出す。
「んんっ……もうちょっと……」
「何言ってんだ。みんな食べ終わっちゃうよ」
リメアはのそのそと、目を擦りながら起き上がる。
「はい、リメアのぶん」
俺がおにぎりをリメアに手渡すと、それを受け取り口に含んだ。
「ん……酸っぱい……」
リメアはそう言いながらも、ニコニコしながら頬張る。
…………なんだよ、可愛いじゃん。
いつもこんな感じで大人しかったら良いのに。
まぁ……中身がなぁ。
「んぁ、ほうほう」
カゲトが何かを言いかけ、フランクフルトを飲み込む。
「で、さっき言ってたチョーハツっての、なんだよ」
俺も、自分用に買ってきたパンをつまみながら聞くことにする。
「あぁ、ひょーはふっへのはな」
ツユがおにぎりを口いっぱい入れると、飲み込む。
「敵の注意を引いて、自分に攻撃を集中させるスキルだ」
「俺が仮にそのスキルを使ったら、敵から確定で狙われるってわけか」
「あぁ」
それってどういう原理なんだろう。
魔法っていっちゃえばそれまでなんだけどさ。
「で、欠点ってのは?」
「それはな……」
ツユは少し溜めたあと、言った。
「味方も挑発してしまうんだ」




