057 おらおら! 犬っころ!
まずはカゲトが木陰から飛び出し、盾をロングソードで叩いて大きな音を出す。
「おらおら! 犬っころ! 美味い肉がここにいるぞぉ!」
カゲトったら、随分と威勢が良いな。
頼もしい。
それに気づいたヘルハウンドが、その真っ黒な体を震わせ威嚇を始めた。
「グルルルル……」
「ほらほら! ここだぜぇ!」
タイミングを見計らったツユが、木陰から飛び出す。
「喰らえっ!」
ツユの投げた瓶がヘルハウンドに命中。
「キャン!」
軽い悲鳴を上げると、顔を前足で押さえもがく。
「今だ!」
ツユの掛け声と共に、俺とリメアは飛び出すと。
「「マジックボール!」」
同時に魔法を放った。
ヘルハウンドは魔法を受け、大きく吹っ飛ばされる。
俺はその隙に、全員に腕力と脚力増強の支援魔法を掛けた。
「グワウ! グワウ!」
ヘルハウンドはすぐに体勢を立て直すと、赤く充血した目で俺達を睨んでくる。
「グラァァァ!」
「おっ! 来たきた! かかってこい!」
そのまま、一目散に俺達の方へ駆けてきた。
カゲトが前に出て、盾と剣を構える。
おそらくスキルを発動させているのだろう。
キュィィィという音と共に、カゲトのロングソードが耀く。
同時に、ツユがカゲトにプロテクトを張った。
「ウインド!」
ツユの放った不可視の風魔法を、軽々と避けて向かってくる。
そしてヘルハウンドは飛び上がると……。
「スラァァァッシュゥ! ……あれ?」
カゲトのスキルを掠め。
「えっ……うそうそうそうそうそうそ!」
俺の方に飛び掛かってきた。
「グルァァァァアウウ!!」
俺は咄嗟に、プロテクトを展開するが。
「グァァァ!」
ヘルハウンドの爪撃によって、呆気なく破壊されてしまった。
「っ……!」
俺は後方に飛び、回避しようとする。
しかし、右の太腿に爪撃が命中し、肉が抉れてしまった。
あまりに突然で、痛みを感じない。
このままじゃ転ける……!
案の定着地に失敗し転げてしまうが、杖を地面に立ててすぐに体勢を立て直す。
「いっ……」
両足で立ち上がった所で、右脚にじんじんと痛みが伝わってくる。
「グラァァァァァァアア!!!」
うそっ、マズっ……
「マジックボール!」
再び飛び掛かってきたヘルハウンドの横腹に、リメアの放った魔法が命中する。
「カゲト! トドメを!」
「おっしゃあ!」
倒れたヘルハウンドに、カゲトのスキルが刺さる。
「クゥゥゥン……」
やがて息絶えたヘルハウンドは、煙となって消失した。
「ミツル! 大丈夫?」
一番近くにいたリメアが、俺の所に駆けてくる。
「うん……痛ぁ……大丈夫じゃ、無いかも……」
俺はズボンを下ろす。
やがてヘルハウンドの大きな爪痕が露わになった。
「うおっ結構……イタタタタ」
自分についている傷の大きさに驚く。
そして、それを目視した途端、強烈な痛みが襲ってきた。
「待ってね、今回復を」
リメアが俺に手を伸ばすが、ツユにその手を掴まれる。
「ちょっとツユちゃん、なんで止めるの? ミツル凄い痛そうなんだけど。早く治してあげないと」
「まぁ待て、奴は毒とか持ってないから、焦らずとも死にはしない」
ツユは言いながら、バックパックに入った回復ポーションを取り出す。
「お主の回復魔法。しんせいじゅつ、だったか? あれは魔力効率が悪すぎる。確かに回復量は高かったが、魔力切れで道中倒れられては困るからな。それに……」
ツユは両手に持ったポーションの瓶をチャプチャプと揺らしながら、続ける。
「ここで使えば、荷物も減るしな」
「おいツユ、ちゃっちゃとミツルを治してやれ」
カゲトに言われ、ツユはポーション瓶の蓋を開けながら
「すまんすまん」
と謝る。
「ミツル、少し染みるかも知れないが、我慢しろよ?」
言うと、ツユはポーションを太腿にドバァっと……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「うるさい。静かにしろ」
少しどころじゃねよこれぇ!
痛い痛い! チョー痛い!
「やはり一本では足りないか。低級ポーション並みだな」
ツユは呟きながら、二本目のポーションに手をかける。
栓をキュポンと開けると……。
「え? ちょっ、タンマタンマァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
「魔物が寄ってくるぞ。黙ってろ」
ひぃぃぃぃぃぃ!!
クソゥ! リメアとカゲトが俺を見て笑い堪えてやがる! 覚えてろ! いつか必ず……
「ほれ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
…………とまぁ、八本くらい掛けられたのだった。




