056 前見てないからそんな事になるんだよーう! ぎゃっ!?
「……ねぇ皆、なんか魔力の流れが変じゃない?」
気持ち悪い感覚というか……。
「そう? ミツルの気のせいだと思うけど」
「そうかなぁ」
リメアに言われ、渋々納得する。
先程、カラスから逃げ延びた俺達は、尚もディテクまでの街道を進んでいた。
俺って結構薄情なのかも知れないなぁ。
と、時々思う。
さっきカゲトがカラスを真っ二つにした時、グロいなぁくらいの感情しか持たなかった。
魔物を倒す時だって、死んだら煙になって消えちゃうから、あんまり罪悪感はない。
だけどイノシシを踏みつけて殺した時とか、クエスタの腕を切り落とした時は、なんともいえない罪悪感に襲われた。
俺って結局、どう思ってるんだろう。
「おいミツル、どうした?」
カゲトに声をかけられ、ハッとする。
「い、いや、なんでもないよ。ちょっと考え事」
「ふぅん」
カゲトに訝しげな顔で言われる。
「お主、その調子で大丈夫か? ここは魔物も出るのだ。しっかりしろ」
「うん」
ツユに言われ、周囲を警戒する。
「ツユちゃんったら、そんなに気ぃ張らなくても大丈夫だよ」
呑気なことを言いながら、スキップをするリメア。
──ベチャッ。
「ベチャ?」
突然した音に、リメアが足元を見る。
そこには、リメアに踏み潰されたスライムがいた。
やがてそいつは、煙となって消える。
「ほら、魔物も出ると言っただろう。スライムで良かったな。警戒しておけ」
「は、はぁい……」
ツユに言われ、シュンとなるリメア。
こんな調子で、俺達は歩みを続けた。
アドベルンを出て一時間程だろうか。
「疲れたぁ……」
リメアが音を上げる。
「リメアは貧弱だなぁ。俺はまだまだ行けるぜ」
カゲトがリメアを挑発する。
「俺も行けるよ。まぁリメア、運動してなさそうだし、バテてもしょうがないよね」
俺もその挑発に便乗するが。
「あんたも苦しそうじゃない」
げっ、見抜かれてたか。
「そんな事ないよ?」
「汗凄いけど」
俺は言われて、額を拭う。
……確かに凄い汗だ。
「俺、汗っかきだから」
「こんなに寒いのに?」
そうだった。
まだ二月の始まりだ。
疲れている以外で汗をかくはずもない。
「やっぱり疲れてるんでしょう?」
リメアに顔をずいと近づけられ、後退る。
「そそ、そんな事は……」
この女神、頭の悪さで忘れそうになるけど可愛いんだよな。
あんまり顔を近づけないでください……!
「お主ら、あと二時間は歩け。そうしたら昼休憩にしてやる」
「「あと二時間!?」」
俺とリメアは、ほぼ同時に発言者の方を振り返る。
「あぁ、あと二時間だ」
しょぼくれる俺達に。
「もっと運動しろよな」
なんてカゲトが言う。
……うるさいな! わかったよ!
***
それから一時間程。
「クタクタだよぅ……」
リメアは手を前でブラブラさせて、フラフラと歩いていた。
「リメア、しっかり! ゾンビになるにはまだ早い!」
俺はリメアの肩を揺すると、そう揶揄う。
いやだって、クマは濃いわフラフラ歩くわで、ガチゾンビみたいなんだもの。
「ミツル、あんたそんな事言ってる暇あるの? そっちもめっちゃガクガクしてるけど」
「俺はまだ余裕だけど?」
嘘である。
足の感覚がもう無い。
「ミツルこそ、もう疲れちゃって……ふぎゃっ!」
リメアが俺を揶揄おうとして、突然止まったツユの背中に激突する。
「ギャハハハ! 前見てないからそんな事になるんだよーう! ぎゃっ!?」
そんなリメアを、ここぞとばかりにイジってやると同時、俺も正面の木に激突する。
「お前ら……」
カゲトの呆れた声が後ろから聞こえてくるが、癪なのでスルーを決め込んだ。
「ミツルったら! 木にぶつかるなんて! バッカじゃないの!」
くそっ、ケラケラ笑いやがって!
「リメアだって、ツユに思いっきり突っ込んだ癖に!」
「お主ら、少し静かにしろ!」
「「す、すみません」」
ツユに一喝され、俺とリメアは咄嗟に謝る。
「なんだツユ? なんかいたのか?」
「あぁ。……空間把握」
ツユが手を前に突き出し、魔法を放った。
「……やはり魔物だな。ヘルハウンドだ」
うげぇ、魔物?
「魔物って、街道に出てきたりするものなの?」
リメアがツユに問いかける。
確かに、魔物側だって、人間に近づく理由が無ければ街道なんかに出て来ないよな。
「あぁ、奴らは魔力を糧とするからな。魔法持久力が高い者を襲ってくる。もしかしたら、ミツルに引き寄せられたのかも知れない」
「え?」
今なんつった。
「じゃ、じゃあ、ミツルを囮に……」
「おいリメア、冗談でもやめてよ、怖いって」
カゲトが俺達の会話に、呆れたように言う。
「俺が盾役するよ。ツユ、どうすりゃ良い?」
うへぇ、頼もしい。
カゲトイケメン。
「まずは音を立てておびき寄せてほしい」
そう言うと、錬金を始めるツユ。
「今度は何作ってるの?」
「目潰し用の砂だ。こうやってこれとこれを混ぜてやると、目に入った時とんでもなく痛い砂が出来る」
いいながら、地面の砂とバックパックから取り出した砂を、魔法を使い掌で調合するツユ。
「というかツユちゃん、すぷれっとさんだー、だっけ? 強い魔法使えるじゃない。なんでわざわざ錬金術なんか使うの?」
リメアの疑問に、ツユが答える。
「私だってかなり無理しているのだぞ。前も言ったが、魔力の半分は持っていかれる。だからお主らには強くなって貰わんとな……」
お、おいリメア、なに墓穴掘ってんだ。
これ絶対、ディテクに着いたら運動させられるやつだぞ。
「よし、出来たぞ。ヘルハウンドは夜行性だ。ミツルの魔力に誘われて見にきたという所だろう。今はまだ日も出ているし、上手くやれば怪我なしで勝てる。皆、準備は良いな?」
ツユの言葉に、皆頷く。
「よし、戦闘開始だ!」




